010医療崩壊全般の最近のブログ記事

 検察審査会との関係については最近、どなたかがコメント欄でも指摘されていたところであり、ここで私の思うところをまとめてみたいと思います。
 但し、最初にお断りしておきますが、このエントリは憶測に近い推測まじりのエントリです。

 福島地検が大野病院事件をなぜ起訴したのかについて考えてみたのですが、いくつかの要因があるにせよ、被害者側の処罰感情の厳しさから見て、不起訴処分にした場合は検察審査会への申立がほぼ確実なものとして予想され、検察審査会が本件を見た場合、不起訴処分に異議があると判断する可能性があると福島地検が考えたことが、本件起訴の大きな要因になっていると想像されます。

 検察審査会というのは、検察官が不起訴処分にした事件について、その処分の当否について
審査する組織です。
 簡単な説明として「検察審査会 - Wikipedia」を紹介しておきます。
 その構成メンバーは、「選挙権を有する国民の中から無作為に選ばれた11人の検察審査員」です。つまり、一般市民です。
 検察審査会が、不起訴処分で問題ないと認めれば「不起訴相当」という議決をしますが、捜査が十分じゃないんじゃないか、もっと捜査を尽くさないと不起訴と言えないんじゃないか、というような場合は「不起訴不相当」という議決をします。
 そして、(検察審査員から見れば)証拠が十分あるじゃないか、なんで起訴しないんだ、というような場合は、「起訴相当」つまり起訴しろという議決をします。

 現在、検察審査会の「起訴相当」の議決に法的拘束力はありません。
 つまり、検察官は、検察審査会が「起訴相当」の議決をしたとしても、起訴しなければならない義務は生じませんので、再度、不起訴処分にすることができます。
 しかし、検察庁では、事件が検察審査会に対して不服申立手続をされることを嫌います。
 最大の理由は、単純に面倒くさいからですが(検察審査会が「不起訴不相当」や「起訴相当」の議決をした場合は、それなりの再捜査をしてかなり詳細な報告書を作成しなければなりませんし、上級庁の決裁もいるはずです。)、それとともに、「不起訴不相当」や「起訴相当」の議決が出ればメンツにかかわりますし、マスコミからの批判も受けることが予想されます。

 検察庁としては、事件を受理した以上、起訴するか不起訴にするかしかないのですが、
 誰が見ても起訴できない、またはすべきでない事案であれば、毅然として不起訴にすればいいのですが、業務上過失致死傷罪は、素人感覚的にはプロがやっているのに死傷の結果が出たということはどこかにミスがあったのではないか、という感覚的判断が生じやすい、と検察庁でも考えますので、検察審査会に不服申立された場合の検察審査員の素人感覚を考えますと、検察としてはなかなか不起訴にしにくいのです。

 大野病院事件は、病院側と被害者側とで示談が成立していれば、絶対と言っていいほど起訴はなかった事案だと思います。
 示談が成立したということは、被害者側からの検察審査会への不服申立の可能性がなくなったということを意味しますので、安心して不起訴にできるからです。

 しかし、示談の見込みがない以上、検察としては、不起訴にして検察審査会で「不起訴不当」や「起訴相当」の議決が出るリスクを負うか、積極証拠を集めて起訴してしまうか、という二者択一を迫られることになります。
 起訴したとしても、公判で否認されれば検察としてはそれなりに手間がかかるのですが、当時の福島地検が、「検察審査会から文句をつけられるより、起訴してしまったほうが面倒くさくなくていい、と思ったのではなかろうか、というのが私の憶測の中に一つの可能性としてあります。
 あくまでも憶測ですが。

 その憶測が正しいと仮定すれば、当時の福島地検は、被害者の顔色を窺い、検察審査会のプレッシャーに怯えて自分たちの保身を考えていただけで、起訴の社会的影響などというものは微塵も考えていなかったのだろうと想像できます。

 ところで、大野病院事件の捜査の過程で、一点だけほぼ断定的に批判できるところがあります。
 それは、被告人の医師を逮捕・勾留したことです。
 明らかに、逮捕はもちろん、勾留請求の必要性もなかった事案だと思います。
 逮捕したのは警察ですが、このような事件では事前に警察と検察との間で協議があるのが普通ですから、検察は警察の逮捕を了承するかあるいは指示した可能性が高いです。
 勾留請求は、福島地検の判断です。勾留自体は裁判官の判断ですが、ほとんど検察官の請求通りに認めます。
 では、なぜ、福島地検は医師を勾留したのか。
 さらに憶測をたくましくしますと、福島地検は、公判における面倒くささを少しでも減らすために医師を勾留した疑いが払拭できません。
 つまり、検察官の医師に対する、「どうせ執行猶予なんだから早く自分の過失を認めろ、認めれば保釈に同意してやる、」という恫喝を感じるのです。
 典型的な人質司法です。
 このように考えると、検察が医師を逮捕したことと、さきほどの私の憶測はよく整合することになります。

 もっとも、被告医師がその恫喝に屈しなかったので今の公判状況があります。

 話が、若干横道にそれた感もありますが、このエントリの趣旨は、検察審査会の影響です。
 本件当時は、検察審査会の議決に法的拘束力がなかったのに、事実上の大きな影響を検察庁が受けた可能性があります。
 しかし、改正検察審査会法が2009年5月に施行された後は、検察審査会が2回起訴相当議決をした場合は、被疑者が起訴されるという法的拘束力が生じます。
 つまり、検察審査会が検察庁に与えるプレッシャーはいまよりはるかに高くなるということです。


 医療側としては、刑事免責を主張するのは悪いとは言いませんが、他にも考えなければいけないことがいろいろあると思われます。


追記
 補足説明として以下のコメントをお読みください。
 No.29 モトケンのコメント

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 「医療側からの刑事免責の主張をどう理解すべきか」のコメント数が200を超えようとしていますので、続編を立てます。

 先のエントリにおいて、an_accused さんがそのコメント(No.195)

 このブログ内の話はさておき、我が国では「過失を処罰によって抑制しよう」という考えが根強く、また、刑事司法(というより警察・検察)への盲目的ともいえる信頼があるようです。

  (中略)

 このような法文化を有する我が国において、どの分野であれ「刑事免責」が認められるようになるのは至難の業だと思います。だからこそ、そこは長期的課題として、日医医賠責審査会や各医師会の拡充により「医事紛争を、起訴前・民事提訴前に、第三者機関がさっさと全件鑑定してしまうこと」つまり「法律家やトンデモ鑑定医がでしゃばる前にさっさと医療者側が鑑定結果を示し、紛争処理、とりわけ事実認定において主導権を握ってしまうこと」をお勧めしているわけです。

と述べられています。

 私の基本認識も同様です。

 制度としての(つまり運用面の問題ではない)医療事故に対する刑事免責が、近い将来に実現する現実的可能性はほとんどない、と思われます。

 となりますと、理念的な問題または現状認識のためのたたき台として問題提起する意味で刑事免責を主張し議論することはそれなりの意味があるとしても、それだけにこだわっていては現状は何も変わらないし、場合によっては反対意見による印象操作によってマイナス効果のほうが大きくなってしまう恐れも感じられます。

 引き続き、建設的な議論を期待します。

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 一市民 さんが、コメント欄で紹介してくださったものです。

 「医療崩壊」緊急勤務医アンケート

 どれくらいの回答があるのかわかりませんが、どんな結果が出るのか興味深いです。

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新人医師、半数近くが臨床研修後も母校に戻らず(2008年7月12日20時16分 読売新聞)

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“5分ルール”で「医療崩壊」加速!?(CBニュース ウェブ魚拓

 ニュースを読んだだけではわかりにくい記事ですが、要するに現場では総スカンの医療政策のようです。
 どういうことになるのかわかりやすい説明が以下のブログ。

 5分の代償(新小児科医のつぶやき)

 毎度毎度厚労省は何をやってるんだろうか、と言う前に医師の皆さんの意見または説明をお聞きしてみたいな、と思います。

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 「小倉秀夫弁護士の「全国医師連盟」批判について」における議論がまだ続いてますが、コメント数が多くなりましたので、続きはこちらでお願いします。

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 医師養成数、増加へ転換 医療危機受け厚労省方針(asahi.com 2008年6月18日22時16分)

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 医療崩壊関係エントリの過去ログをまとめてみました。

  地方の医師不足(最新追記8/8)
  医療崩壊に対する制度論的対策について(その1、2)
  医療崩壊について考え、語るエントリ(その1〜12)

 のエントリ及びコメントをまとめてあります。
 ゴミがまざってるかも知れませんが、その点はご容赦を。

  医療崩壊エントリの過去ログ1

 読みにくいと思いますので、エディタにでもコピペして読んでください。

 上記ページではリンクが機能しませんので、リンクをたどりたい方は以下のページへどうぞ。
 
  医療崩壊関係エントリ1
    地方の医師不足(最新追記8/8)
    医療崩壊に対する制度論的対策について(その1、2)
    医療崩壊について考え、語るエントリ(その1〜3)
  医療崩壊関係エントリ2
    医療崩壊について考え、語るエントリ(その3〜9)
  医療崩壊関係エントリ3
    医療崩壊について考え、語るエントリ(その10〜12)

    

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対談 医療崩壊を防ぐためにボツネタ経由 医学書院 ウェブ魚拓

 昭和大産婦人科学教室主任教授岡井崇氏と舛添厚生労働大臣の対談です。

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 小倉秀夫弁護士が、「刑事罰は業界を崩壊させるのか」というエントリを書いておられる。

 どの業界を念頭においてのエントリなのか明示がないので不明です。
 きちんと明示して批判なさったほうが、小倉弁護士があげている比喩が的外れなものか当たっているのかはっきりして、より有益な議論になると思うのですがそれはさておき

 業界というかある種の仕事について、刑事罰によって崩壊させられる場面を想定することは可能です。
 小倉弁護士は長距離トラック運転手の例をあげておられますので、私もトラック運転手を例にとってみます。

 A町からB町までの間の道路事情はとても悪く、穴ぼこばかりの未舗装道路ばかりであったと想定します。
 甲運送会社はA町からB町までの物資輸送を請け負っていましたが、途中の道路の未舗装による振動により、1週間に1〜2回は積荷が損傷するという事態が発生していました。
 しかし、顧客たちは、道路が悪いんだから仕方がないと考え、誰も甲運送会社や同社のトラック運転手の責任を追及したりしませんでした。
 ところが、ある時、ある顧客が、運送会社が積荷を無事に届けるのは当然だと主張して、壊れた積荷に関する損害賠償請求訴訟を起こすと同時に、運転手と社長を器物損壊罪で刑事告訴しました。
 裁判所は、顧客の賠償請求を認め、社長や運転手は、争ったことから逮捕勾留の上起訴された刑事事件でも有罪になってしまいました。
 甲運送会社の社長や運転手は、こんな仕事やってられないと言って、A町からB町への荷物の輸送をやめてしまいました。
 もちろん、別の会社もA町からB町への荷物の輸送を請け負うことはありませんでしたとさ。

 比喩は以上ですが、何が言いたいかといいますと、ある業界でそれまで「普通のこと」とされていたことが犯罪だとされてしまうと、その業界は崩壊するということです。

 似たようなことが現在進行形で起こっています。

 福島大野病院事件です。
 帝王切開手術の際に妊婦が死亡した事案において、執刀医が業務上過失致死罪等により起訴されました。
 まだ判決は出ていませんが、産科医業界では被告人医師の治療行為は「普通のこと」(*)と認識されており、この事件によって産科医の減少は確実に加速したと考えられています。

 なお、医療行為全般に対する刑事免責については、私としても賛成しかねます。
 ただし、全国医師連盟の「代表からのご挨拶」において、代表の黒川衛氏は

 救命活動時の部分刑事免責

 を主張されています。
 これにつきましては、法制度としての刑事免責へのハードルはかなり高いと思いますが、検察の起訴基準見直し等による運用上の対応の必要性がある領域であると考えています。

(*) 「普通のこと」は私がこのエントリ用の表現として用いたもので、被告人・弁護側の表現ではありません。

追記
 はてブで、小倉先生とおぼしきIDで、過失による器物損壊は不可罰との指摘がありますが、上記比喩では未必の故意が認定可能です。
 過失犯立件の当否の問題じゃなかったのか、という批判が予想されますが、私はこの問題を刑事司法の介入の当否の問題と考えています。そして、私の理解では刑事罰というのは故意犯も過失犯も両方含みます。
 未必の故意と認識ある過失の境界はあいまいですしね。

 このたとえ話が適切かどうかの判断は、医療崩壊問題に関する理解の程度によって左右されるだろうと思います。
 どの例えがどの事情をあらわしているかは、知らない人にはわからないでしょう。
 なお、このエントリが釣られエントリであることは間違いありません。
 売り言葉に買い言葉ですね。
 反省してます m(_ _)m
 あ、この追記もそうですね m(_ _)m m(_ _)m

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 小倉秀夫弁護士がご自身のブログ(la_causette)においての「全国医師連盟」を批判しておられます。

 医療側からいろいろ異論・反論があろうかと思いますが、小倉弁護士のブログのコメント欄は承認制であり、特に匿名コメントは原則的に承認しない方針のように思われますので、ここに反論表明の場を設けることにしました。

 もちろん、「全国医師連盟」からの公式反論は、しかるべき方が所属と実名を明らかにした上でしかるべき場所で行うのが筋でありますが、ここではそれとは別に、医療側非医療側を問わず、自由に議論していただければよいと思います。

追記
 No.4 いちエンジニアさんのコメントにあるように、

 この文書は現時点での全国医師連盟の公式の意見ではない可能性があると思います。

という点には留意したほうがよいと思います。

 しかし、ともかく「全国医師連盟」の名前で作成され、現在もネット上で閲覧可能であり、著名ブログで批判された文書でありますので、「全国医師連盟」としても正当な批判は批判として受けることが将来にとって有益であると思いますので、このエントリは継続したいと思います。

 なお、蛇足ですが、私は「全国医師連盟」の設立にまったく関与しておりません。
 しかし、私のブログや私が作ったSNS(MJLnet)がその発足の土壌の一つになったというのであれば、社会が少しでもよくなるような存在に成長していっていただきたいと心から願っています。

 全国医師連盟のホームページ

追記
 関連エントリをアップ
 「このブログと医療問題について
 「刑事罰は業界を崩壊させ得る

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 自由な議論の場として作りました。

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公立93病院で入院休止、医師不足など理由に…読売調査(2008年4月6日03時03分 読売新聞)

 診療科別では、産婦人科・産科の休止が44病院あり、次いで小児科の19病院。両科は、訴訟のリスクや不規則な勤務などで全国的に医師が不足しているといわれており、公立病院でもその傾向が表れた。
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大阪府6病院、救急から撤退 医師不足、態勢維持できず(asahi.com 2008年02月07日 ウェブ魚拓

 実減少数は2のようですが

 1日に100人を超す患者を受け入れる地域の小児救急の中核的存在だった松原市立松原病院では昨秋以降、小児科医7人中2人が退職。さらに、男性医師が過労で倒れ、3月には研修医1人も辞めるため、態勢を維持できなくなった。病院幹部は「日中の診察は継続する。現状を改善したいが、医師の補充が難しい」。

 雪崩現象的減少という感じがします。

 府医療対策課の担当者は「背景にある医師不足を早期に解消するのは困難。急患を確実に受け入れられる病院を増やす方策を考えたい」と話す。

 そんな魔法みたいな方策があるんでしょうか?

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県立南会津病院:産婦人科、3月末で休診 常勤医2人退職、後任なく /福島(毎日新聞 2008年2月1日 ウェブ魚拓

 別エントリで紹介のあったニュースですが

 やはり大野病院事件ウィキペディア)の影響があるんでしょうね。

 

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産婦人科と小児科の診療休止急増、医師不足が深刻化(2007年10月15日21時29分 読売新聞 ウェブ魚拓

 医師の採用枠を満たせない病院も4分の3に上り、協議会は「医師不足が予想以上に進んだことや、医療費抑制による経営圧迫の影響」と分析している。

 「医師不足が予想以上に進んだこと」の原因を分析しないと分析したことにならないのではないでしょうか。
 医療側の皆さんが指摘した予測が着々と現実化しているようです。

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医師確保できず「全科休診」 東京・北区の総合病院(asahi.com 2007年09月29日11時43分 ウェブ魚拓

 背景事情がよくわかりませんが、このような状況の存在をお伝えします。

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救急車流産:受け入れ不可能の病院産科医、分娩に追われ毎日新聞 2007年8月30日 3時00分 ウェブ魚拓

 また奈良県で同じようなことが起こってしまいました。

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を打開するため、とのことですが

医師・助産師不足、関係学会が緊急対策を要望(2007年7月9日23時12分 読売新聞 ウェブ魚拓

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