検察審査会との関係については最近、どなたかがコメント欄でも指摘されていたところであり、ここで私の思うところをまとめてみたいと思います。
但し、最初にお断りしておきますが、このエントリは憶測に近い推測まじりのエントリです。
福島地検が大野病院事件をなぜ起訴したのかについて考えてみたのですが、いくつかの要因があるにせよ、被害者側の処罰感情の厳しさから見て、不起訴処分にした場合は検察審査会への申立がほぼ確実なものとして予想され、検察審査会が本件を見た場合、不起訴処分に異議があると判断する可能性があると福島地検が考えたことが、本件起訴の大きな要因になっていると想像されます。
検察審査会というのは、検察官が不起訴処分にした事件について、その処分の当否について
審査する組織です。
簡単な説明として「検察審査会 - Wikipedia」を紹介しておきます。
その構成メンバーは、「選挙権を有する国民の中から無作為に選ばれた11人の検察審査員」です。つまり、一般市民です。
検察審査会が、不起訴処分で問題ないと認めれば「不起訴相当」という議決をしますが、捜査が十分じゃないんじゃないか、もっと捜査を尽くさないと不起訴と言えないんじゃないか、というような場合は「不起訴不相当」という議決をします。
そして、(検察審査員から見れば)証拠が十分あるじゃないか、なんで起訴しないんだ、というような場合は、「起訴相当」つまり起訴しろという議決をします。
現在、検察審査会の「起訴相当」の議決に法的拘束力はありません。
つまり、検察官は、検察審査会が「起訴相当」の議決をしたとしても、起訴しなければならない義務は生じませんので、再度、不起訴処分にすることができます。
しかし、検察庁では、事件が検察審査会に対して不服申立手続をされることを嫌います。
最大の理由は、単純に面倒くさいからですが(検察審査会が「不起訴不相当」や「起訴相当」の議決をした場合は、それなりの再捜査をしてかなり詳細な報告書を作成しなければなりませんし、上級庁の決裁もいるはずです。)、それとともに、「不起訴不相当」や「起訴相当」の議決が出ればメンツにかかわりますし、マスコミからの批判も受けることが予想されます。
検察庁としては、事件を受理した以上、起訴するか不起訴にするかしかないのですが、
誰が見ても起訴できない、またはすべきでない事案であれば、毅然として不起訴にすればいいのですが、業務上過失致死傷罪は、素人感覚的にはプロがやっているのに死傷の結果が出たということはどこかにミスがあったのではないか、という感覚的判断が生じやすい、と検察庁でも考えますので、検察審査会に不服申立された場合の検察審査員の素人感覚を考えますと、検察としてはなかなか不起訴にしにくいのです。
大野病院事件は、病院側と被害者側とで示談が成立していれば、絶対と言っていいほど起訴はなかった事案だと思います。
示談が成立したということは、被害者側からの検察審査会への不服申立の可能性がなくなったということを意味しますので、安心して不起訴にできるからです。
しかし、示談の見込みがない以上、検察としては、不起訴にして検察審査会で「不起訴不当」や「起訴相当」の議決が出るリスクを負うか、積極証拠を集めて起訴してしまうか、という二者択一を迫られることになります。
起訴したとしても、公判で否認されれば検察としてはそれなりに手間がかかるのですが、当時の福島地検が、「検察審査会から文句をつけられるより、起訴してしまったほうが面倒くさくなくていい、と思ったのではなかろうか、というのが私の憶測の中に一つの可能性としてあります。
あくまでも憶測ですが。
その憶測が正しいと仮定すれば、当時の福島地検は、被害者の顔色を窺い、検察審査会のプレッシャーに怯えて自分たちの保身を考えていただけで、起訴の社会的影響などというものは微塵も考えていなかったのだろうと想像できます。
ところで、大野病院事件の捜査の過程で、一点だけほぼ断定的に批判できるところがあります。
それは、被告人の医師を逮捕・勾留したことです。
明らかに、逮捕はもちろん、勾留請求の必要性もなかった事案だと思います。
逮捕したのは警察ですが、このような事件では事前に警察と検察との間で協議があるのが普通ですから、検察は警察の逮捕を了承するかあるいは指示した可能性が高いです。
勾留請求は、福島地検の判断です。勾留自体は裁判官の判断ですが、ほとんど検察官の請求通りに認めます。
では、なぜ、福島地検は医師を勾留したのか。
さらに憶測をたくましくしますと、福島地検は、公判における面倒くささを少しでも減らすために医師を勾留した疑いが払拭できません。
つまり、検察官の医師に対する、「どうせ執行猶予なんだから早く自分の過失を認めろ、認めれば保釈に同意してやる、」という恫喝を感じるのです。
典型的な人質司法です。
このように考えると、検察が医師を逮捕したことと、さきほどの私の憶測はよく整合することになります。
もっとも、被告医師がその恫喝に屈しなかったので今の公判状況があります。
話が、若干横道にそれた感もありますが、このエントリの趣旨は、検察審査会の影響です。
本件当時は、検察審査会の議決に法的拘束力がなかったのに、事実上の大きな影響を検察庁が受けた可能性があります。
しかし、改正検察審査会法が2009年5月に施行された後は、検察審査会が2回起訴相当議決をした場合は、被疑者が起訴されるという法的拘束力が生じます。
つまり、検察審査会が検察庁に与えるプレッシャーはいまよりはるかに高くなるということです。
医療側としては、刑事免責を主張するのは悪いとは言いませんが、他にも考えなければいけないことがいろいろあると思われます。
追記
補足説明として以下のコメントをお読みください。
No.29 モトケンのコメント