いつも見ておりますロースクール道で横領と背任の区別が議論されています。
リンク先のコメントを見ていただければわかりますが、黒猫先生と私ほか数名の方の見解が対立している(ように見える)状況です。簡単に紹介します。
braveさんの問題提起
でも、この論点って、ほんとに書かないとダメですか?
単に(業務上)横領罪の構成要件に該当するかを検討して、該当しなかったら、背任罪を検討するだけではダメですか?
黒猫先生
法律的には業務上横領罪と背任罪の両方が成立しそうに思われる場合があり,業務上横領罪の構成要件に該当するか否かを論じる前に,そもそも背任罪との棲み分けという関係で業務上横領罪の構成要件をどのように解するかを論じる必要があるので,理論的には必要と思われます。
PINE先生
答案練習で出題されれば、領得行為と認められれば横領罪、それが認められない場合に背任罪の検討、と答案上は処理してしまっていたと思います(事例問題)。
ただ、理論上は黒猫さんの指摘の通りなんですよね。
私(モトケン)
黒猫先生の言われることも分かるのですが、検察官的には、「単に(業務上)横領罪の構成要件に該当するかを検討して、該当しなかったら、背任罪を検討する」です。
(中略)
しかし、理論的には、横領罪と背任罪の区別というのは、横領罪の成立の限界の議論と言えますから、事案によってはもろに論点になると思います。
落合先生
感覚的には、モトケン先生の言われるとおりだと思います(私も同様の感覚です)。
ただ、持っている権限が大きければ裁量の幅も広がり、権限が小さく裁量の余地が乏しい人ならば横領になるような行為であっても、そういった人の場合、横領ではなく背任ではないか、という場合も生じてきます。
理屈の世界では、「横領と背任の区別」で終わってしまいますが、実務的には、なかなか微妙な案件というものがあります。
その意味で、実務を知らないまま、あまり単純、明快に割り切ってしまうのもどうかな、という気がします。
黒猫先生
司法試験的には,このように実務家が集まれば議論が百出するような重要問題について答案で一言も触れないと,この論点を知らないと評価されてしまうおそれがあるので,内心は懐疑的でも一応書いておかざるを得ないという事情があると思います。
実務上は起訴便宜主義なので,先に法定刑の重い業務上横領罪を検討し,それが無理な場合に背任罪を検討するといったやり方でも支障は出ないと思いますが,司法試験だと背任罪が成立する場合には背任罪の成否も検討しなければならず,もし両罪の棲み分けを考えず両罪とも成立する余地を残す場合には,両罪が観念的競合か法条競合かを論じる必要が生じます。
黒猫先生のご意見は、司法試験テクニックという観点からのご意見のように思われます。
但し、私の見解も「検察官的には」と書いていますが、理論を無視した実務上の判断というわけではありません。
当然、罪数論を踏まえた見解です。
すなわち、委託物横領罪と背任罪とは法条競合の関係にあり、委託物横領罪が成立する場合は背任罪は(構成要件に該当するように見えても)成立しない、という理解が前提にあります。
そして、結論を導き出すにあたって必要のない議論は、司法試験においても必要ない、というスタンスで考えています。これは現行司法試験でも同様です。
不必要な議論は不要という考えは、何人かの司法試験委員の先生からも聞いたことがあります。
問題は、横領と背任の区別という議論の理論的な位置づけだと思うのですが、その点を確認するために代表的な刑法各論の基本書をいくつか読んでみました。
大谷 實 新版刑法講義各論 追補版 334ページ以下
(1)問題の所在
同じ任務違背行為である横領罪と背任罪の双方が問題になり、横領罪が成立するときは両罪は法条競合の関係に立ち、重い横領罪が成立するとするのが通説・判例である。しかし、どの範囲で横領罪が成立するかは困難な問題である。そこで、横領罪と背任罪の区別が問題となるのである。
前田雅英 刑法各論講義 第3版 280ページ
しかし、両者が重なり合う範囲では、広い背任罪の一部が横領罪と考えてよい。そうだとすると、横領と背任の区別は、結局横領をどこまで処罰するのかという問題に帰着する。
山口 厚 刑法各論 補訂版 325ページ
両罪は法条競合の関係に立ち、重い方の犯罪のみが成立することになる。したがって、重い方の犯罪の限界によって両罪の区別は画されることになるのである。(中略)具体的には、委託物横領罪・業務上横領罪だけが成立し(大判昭和10・7・3・・・など参照)、委託物横領罪・業務上横領罪の成立の限界によって、両罪の成立範囲は画されることになる。したがって、まず、委託物横領罪の成否を問題とし、その成立が否定された場合、次に背任罪の成否を問題とすることで足り、委託物横領罪と背任罪の区別に関する特別の議論は不要なのである。判例・学説において委託物横領罪と背任罪の区別がこれほど問題とされるのは、委託物横領罪の限界、とくに第三者のために物の不法処分が行われる場合における委託物横領罪の成立の限界が不明瞭であることによるのであり、両罪の理論的区別自体に問題があるわけではないのである。
(中略)
結局、委託物横領罪がどの範囲で成立するか(横領の限界)が問題・決め手となるのである・・・
3人の先生とも横領罪と背任罪の区別の議論は横領罪の限界の問題として位置づけておられると読めます。
特に山口先生の記述が最も明確にその点を指摘されています。
結局、横領と背任の区別の問題は、委託物横領罪・業務上横領罪における「横領行為」とは何なのか、当該事案のおいて横領行為は存在するのか、という問題に他ならないと思われます。
横領と背任の区別をその位置づけを理解せずして論じた場合、初学者限定かもしれませんが、横領罪が成立しない場合は、当然に背任罪が成立する、という誤りを犯しかねない危険を感じます。
言わずもがなですが、背任罪の成否は横領罪の成否とは独立して、背任罪の構成要件に該当するか否かという観点から確認されなければなりません。
そして、横領罪が成立するならば、上記罪数関係を前提にすれば、実質的に同一の法益侵害に対して背任罪の成否を問題にする余地はなくなるわけです。
最後に、横領罪と背任罪の両方の成立の可能性がある司法試験問題に対してどのように対処すべきかについて述べてみます。
1 両罪が成立する可能性の指摘(簡潔に)
2 両罪の罪数論の検討(法条競合により横領罪のみが成立するというのが通説・判例ですから、結論のみでも可)
3 「よって、まず横領罪の成否を検討する。」と宣言
4 「横領」行為の解釈問題において、横領行為の限界という観点から背任行為を意識しつつ論じる。
5 あてはめ
6 横領罪が成立すれば、「背任罪の成否は検討する必要がない」として終わり。
7 横領罪が成立しなければ、あらためて背任罪の成否を検討。
ということになるのではないかと思います。
背任罪の成立を検討する必要がない事案において横領と背任の区別を論じるのは、少なくとも印象のよいものではないと思います。
> 1〜7
うう、むちゃくちゃ分かりやすいです。
「モトケン・フォーミュラ」として、一人歩きしてしまわないかが心配です(^^;
モトケン先生、非常にくわしい解説をありがとうございました。
特に司法試験での対処方法1〜7は、何の違和感も頭に入ってきました。
お忙しい中、複数の基本書を調べていただき、本当にありがとうございました(本来ならば僕自身がすべきことですね。反省しております。)。
fuka fukaさんの「モトケン・フォーミュラ」
いいですね〜。
使用させていただきます(笑)。
とてもわかりやすい見解ですね!トラバさせていただきます!
疑問が氷解しました・・・
ありがとうございます!!!
お役に立ったとすれば、とてもうれしいです。