エントリ

 Annex de BENLIの執筆者は弁護士の小倉秀夫先生でいらっしゃいますよね。
 私のブログにリンクを貼らせていただいたときはたしかそう確認したはずでしたが、Annex de BENLIでは明確でありませんでしたので失礼しました。

 小倉先生は、「Annex de BENLI」の「白黒つけるコスト」において

私は、実体法の解釈としてそれが適法か違法か見解が分かれる場合(俗に「グレーゾーン」といわれている場合です。)、それを違法とする旨の監督官庁の指針が示された後にあえてその活動を続ける人に対してのみ国家は刑罰権を行使すれば足り、その指針が示された後速やかに従前の行動を改めた者に対して刑罰権を行使する必要はないので、「グレーゾーン」に関して証拠隠滅の可能性をおそれ、隠蔽された証拠を暴き出す必要はないと考えるのです。

と述べられています。

 「それを違法とする旨の監督官庁の指針が示された後にあえてその活動を続ける人に対してのみ国家は刑罰権を行使すれば足り、その指針が示された後速やかに従前の行動を改めた者に対して刑罰権を行使する必要はない」については、考え方としては刑事司法の謙抑性の観点から賛同できるのですが、現実問題としては、グレーゾーンについて速やかに問題性が指摘され、監督官庁の指針が示される必要があります。
 そうでないと、グレーゾーンすなわち黒と評価されるかもしれない行為が長く放置され、投資家が晒されなくてもいい危険に晒され続けることになります。
 企業の行動がグレーゾーンであること自体が投資リスクの一つだと思います。

「グレーゾーン」についてそれが実体法的に「白」なのか「黒」なのかを正しく評価するための前提として「事実の正確な解明」を行うためのコストとして、警察・検察が強制捜査を行うことにより市民や企業に与える不利益は大きすぎます。

 私もそう思います。
 しかし、そのような不利益を回避するために監査役制度があり証券取引等監視委員会があると思うのですが、それらは十分機能しているのでしょうか。

 例えばライブドアの例についていえば、「実体法の解釈論争」の結果適法説が裁判所により採用されたとして、これによって堀江さんを含む4人の幹部社員が被った様々な不利益を国家は賠償ないし補償できるかといえば、おそらくできないでしょう。

 これは、捜査を出発点とする刑事司法手続が起動したとき常に生じる問題(誤認逮捕や冤罪の問題)であって、ライブドア事件特有の問題ではないと思います。
 小倉先生は、「グレーゾーン」という言葉を実体法的に犯罪であるかどうか不明確な領域という意味で使われていますが(それが一般的な使い方だと思いますが)、「犯罪であるかどうか」という観点で言えば、捜査の着手段階では全ての事件は「グレーゾーン」であると言えます。

 なんらかのペナルティ(刑事罰は最大のペナルティのひとつ)を科すときに、いかなる場合においても事実認定は避けて通れない問題です。
 そして、人はペナルティを科される恐れがある場合は、事実を隠蔽しようとします。

 もう一度引用しますが、小倉先生の

それを違法とする旨の監督官庁の指針が示された後にあえてその活動を続ける人に対してのみ国家は刑罰権を行使すれば足り、その指針が示された後速やかに従前の行動を改めた者に対して刑罰権を行使する必要はないので、「グレーゾーン」に関して証拠隠滅の可能性をおそれ、隠蔽された証拠を暴き出す必要はないと考えるのです。

という意見、特に「隠蔽された証拠を暴き出す必要はない」という点は、グレーゾーンの行為については、監督官庁の指針が示されるまでは、黒であったとしても刑事免責を与える、ということを前提にしなければ理解できないところです。
 証券取引法違反の罪については、証券取引等監視委員会の告発を要件とする親告罪にする、ということであれば、小倉先生の仰られることも理解できないではないですが、グレーゾーンの行為について、何らかの不利益が生じるのであれば、やはり証拠隠滅の可能性はあります。
 そもそも刑事実体法としてグレーゾーンの行為というのは、刑罰法規的には明確に黒と言えない場合でも、倫理的または取引慣行的に消極評価を受ける場合がほとんどであると思われますので、行為者になんらの不利益もない場合というのはあるのでしょうか。

 私は、「隠蔽された証拠を暴き出す必要はない」という見解にはどうしても納得できません。
 
 小倉先生は、証券取引法158条の「風説の流布」の罪について、不真正不作為犯を問題にされています。
 しかし、不真正不作為犯かどうかは事件の実態を解明しなければわからない問題です。
 ある企業の経営者が、第三者が風説を流布しているのを知りながらそれを是正しなかったというのであれば不真正不作為犯の問題になると思いますが、その経営者が第三者と通謀して風説を流布したのであれば、まぎれもない作為犯です。
 
 「風説の流布」の罪は不真正不作為犯の形態で犯しうるか、どのような場合に不真正不作為犯が成立するか、という点において疑義があるならば、実体法的なグレーゾーンですが、作為の風説の流布は明白に犯罪であり、容疑者と作為者との間に通謀があったか否かが不明確であるというのであれば、それは事実認定上のグレーゾーンということになります。

 つまるところ、不正行為の指摘という現場において、実体法上のグレーゾーンと事実認定上のグレーゾーンを截然と分けることは困難であろうと思います。

 私としましては、刑罰法規の実体法的なグレーゾーンというのは、構成要件の明確性の問題であり、最終的には裁判所の司法判断を待つべき問題だと考えます。
 そして、構成要件というものは、どれほど文言的に明確にしたとしても、適用場面においてグレーゾーンが生じることは不可避であり、それをできるだけ小さくする努力が必要なのですが、ライブドア問題についていえば、まず証券取引業界がその努力をすべきであろうと思います。


 但し、いきなり検察が介入した点については、諸手をあげて賛同するつもりはありません。

 しかし、検察を批判する前に、または批判するとしても

不動産金融屋日記 - カナリヤ投資家の由無し事(連結の定義)

個人的にはこんなに込み入った話をなぜ検察が穿り出して逮捕までしなくてはならないのかという点には個人的に全く納得がいきません。少なくとも、日本の会計士協会、日本版SEC、東京証券取引所、引受証券会社は、この特別目的会社などのVehicleの連結問題を放置していたという点において、ホリエモンが負うことになるであろう責任と同じ責任を投資家に対して負わなくてはならないと思うのです。

というご指摘、及び

nozomu.net(海外から見ているライブドア事件)

そして言論についても思うことがあります。
 問題が明らかになる前にライブドアについて課題を指摘するのは勇気がいることでもありました。名誉毀損の恐れもあります。確かな証拠を持っているのか、といわれれば司法当局以外には無理でしょう。傍証と勘、なによりも企業姿勢そのものへの疑念以外には異議申し立てが難かったのです。

というご指摘は、傾聴に値すると思います。

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コメント(3)

こういう問題ってなかなか理屈では答を出すことができませんよね。

結局のところ「これは行き過ぎだな」とか「常識的にはここまで」とかいう感覚の部分が大きいと思います。

「耐震偽装」で殺人未遂罪が成立するするかについて、私もしばらく前に書いたことがありますけど、現状を見ると「いまでも住んでる人がいるくらいなんだから、殺人未遂になるわけないじゃん」という感じです。

この事件については、起訴不起訴の判断、または判決を待つしか答は出ないと思います。

要するに、グレーゾーンですから(^^;
スタンスの違いが意見に大きく影響すると思います。
こんな見方もあるよ、というつもりで書いてますし、そういうつもりで読んでいただければいいと思います。

 何かライブドア事件の日本のネットでの議論は、被疑者の弁解を鵜呑みにして、「グレーゾーンだ。」「不真正不作為犯だ。」という「虚偽の公表」がまかり通っているみたいですね。
 AfriNIC経由で入手した欧州の報道では、「Horiemon は、積極的に次の3点の虚偽の事実の公表を行った嫌疑で逮捕された。(1)交換比率算出は第三者機関が公正に算出した、(2)買収・被買収会社は相互にライブドアと資本関係も人的兼任もない、(3)買収会社は赤字決算を黒字決算と発表した。この虚偽事実の公表はマスコミと東証に文書で行った上に、ウエブ上でもHoriemonの名前で行ったから、日本の検察庁はウエブエビデンスをコピーした。」と東京特派員電で報道しています。
 外国しかもアフリカの小国にいる私の方が日本在住のIT弁護士であるO弁護士よりも正確な情報が手に入るとはこれ如何に?
 それと、先ほど日本の本社から転送された日本のニュースによれば、ライブドア事件の証取法違反については、証券取引等監視委員会が2年前に内偵捜査を実施し、委員会に刑事捜査権がないので東京地検に捜査情報を提供して合同捜査に移行した模様です。
 いきなり検察が入ったのではなくて、証券取引等監視委員会の「調査」が先行してたんですね。
 もう5年くらい前ですか。この委員会の調査部門の幹部には、検察庁から特捜検事が派遣されていて「調査能力向上」の指導をしている、と仄聞したことがあります。(今はどうか知りませんが)

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