エントリ

 このエントリーは、高裁決定要旨を読む前に書いたものですので、弁護団の控訴趣意書不提出の理由等について、誤った前提で書いているところがあります。
 決定によれば、弁護団は控訴趣意書を完成させていたのに敢えて提出しなかったとのことですが、このエントリーでは、これまでの報道に基づき、ほとんど書いていなかったとの前提で書いております。
 このエントリーの全体としての論旨(弁護団に対する批判)に決定的な影響を与えるものではありませんが、その点を踏まえてお読みください。
 本当は削除して書き直したいところですが、既にいくつかのコメントをいただいておりますので、削除はしないことにいたします。
(3・28 11:10AM)

オウム:松本被告、死刑の公算大に 高裁が被告側控訴棄却(毎日新聞 2006年3月27日 21時09分 (最終更新時間 3月27日 21時42分))
麻原被告の弁護団、控訴棄却に抗議声明
(asahi.com 2006年03月27日12時51分)

 地下鉄、松本両サリンや坂本堤弁護士一家殺害など13事件で殺人罪などに問われ、1審で死刑判決を受けたオウム真理教(アーレフに改称)の松本智津夫(麻原彰晃)被告(51)について、東京高裁(須田賢(まさる)裁判長)は27日、被告の訴訟能力を認めたうえで、控訴を棄却する決定を出した。最高裁の統計がある78年以降、1審で死刑とされた被告の控訴審が、棄却決定されるのは初めて。事件の首謀者とされる被告に対し、高裁で一度も公判を開かずに死刑判決が確定するという異例の事態となる見通しとなった。

 弁護側は28日に控訴趣意書を提出する方針を示していたが、提出期限は昨年8月末で大幅に遅れており、高裁は提出の遅れが裁判を継続するための「やむを得ない事情」に当たらないと判断した。弁護側には高裁に異議を申し立て、さらに最高裁に特別抗告して争う手段も残されているが、この際の審理対象は裁判手続き上の誤りがなかったかどうかに限られ、退けられる公算が大きい。(毎日新聞)

 弁護団は明日には控訴趣意書の骨子を提出すると言っていましたので、タイミングが若干えげつない気もしますが、控訴を棄却してしまいました。

 異議という不服申立手段が残っていますので、まだ勝負はつききっていませんが、弁護団はギャンブルに負けた感じです。

 裁判所としては「なめたらあかんぜよ!!!」というところでしょうか。

 今回の控訴棄却決定も、山口母子殺害事件の出頭在廷命令、筋弛緩剤事件の弁論抜き裁判と同じ流れの裁判のように思われます。
 一言でいえば、「ルールを守れ」ということではないでしょうか。
 「仁義を守れ」と言い換えてもいいかもしれません。
 もっと格好良く言えば、「フェアプレーをしろ」かも。

 全部、弁護士に対して言っているものです。
 もちろん、裁判所から見た言い分です。
 検察官は、それに乗っかってニンマリしていることでしょう。

 弁護団は、これまで「意思疎通ができないので控訴趣意書が書けない」と言ってました。
 松本被告に意思疎通能力がなければ、それは訴訟能力がないということですので、公判手続の停止をすべきなのですが、単に松本被告がへそを曲げているだけならば、何の理由にもならないわけです。

 で、どっちだか確かめてみよう、というのが今回裁判所がやった精神鑑定なわけですが、その結論はへそを曲げているだけだ、ということになってしまいました。
 もちろん、弁護団はそれを争っています。

 法律的には、弁護団の言い分には一理あるかもしれないなと思っているのですが、この事件も他の二件と同様、これまでの流れが弁護団に分が悪い感じがします。

 松本被告と弁護団との意思疎通がない状況というのは、控訴審で始まったことではなく、一審当時からあったわけです。
 そうなりますと、裁判所から見れば、どうして一審のときに主張しないのか、ということになります(私の記憶ではしてなかったと思うのですが、間違っていたら訂正します)。

 そして控訴趣意書ですが、建前としては被告人と弁護団がしっかり協議して作成すべきものであることは間違いないのですが、実際問題としては、控訴趣意書はプロが作るべき書面であり、被告人はその方針を決めるくらいであるのが実情です。
 方針というのは、全面的に争うのか、一部認めるのか、全部認めて情状面を主張するのか、ということですが、松本公判では全面否認に決まっているのですから、批判を恐れず言えば、弁護団が松本被告と相談する必要はないと言っても過言ではないと思います。

 つまり、以前にも書いた記憶がありますが、弁護団としては、松本被告と協議できなくても、控訴趣意書を書くことは可能なのです。
 少なくとも8割9割は書けると思います。

 にもかかわらず、弁護団はこれまでほとんど書いていないようです(別報道あり。後注、冒頭で述べたようにこれは誤りのようです)。
 裁判所から見れば、なんでできる範囲のこともしないのか、ということになります。
 誠意がない、と見えます。
 つまり、引き延ばしに写ります。

*控訴趣意書が完成していたことを前提にしますと、裁判所から見れば、引き伸ばしどころではなく、審理拒否に見えるのではないでしょうか(追記)

 もし弁護団が、

 書ける範囲の控訴趣意書は書いたからとりあえずそれを提出する。
 しかし、弁護団としては松本被告の訴訟能力に重大な疑いを持っている。
 訴訟能力の有無の確認のために早急に精神鑑定を行ってもらいたい。
 もし訴訟能力有りということであれば、ある程度の期間、松本被告と協議の努力をした上で補充するので、若干の提出期限の延長を許可されたい。

というようなことを言ったとしたら、裁判所は無下には控訴棄却しなかったのではないかな、と想像しております。

 しかし、なんにも準備しないでいたとしたら、裁判所としてはかちんと来るだろうな、と思うわけです。
*審理拒否に見えれば、さらにかちんと来ると思います(追記)

 弁護団は提出期限までに控訴趣意書を提出しなかったことにより、高裁に強力なカードを渡してしまったわけです。
 弁護団としては、のるかそるかの大ばくちをしたつもりかもしれませんが、弁護戦術としてはどうだんたんでしょうか。
 はっきり言ってしまえば、拙劣。
 控訴棄却になったら懲戒ものの弁護過誤という意見を以前に読んだ記憶がありますが、異議申立が通らないとその面での批判も大きくなるかもしれません。 

▽松本被告の弁護人の声明 元来、公判を停止して治療すべきであるにもかかわらず、控訴審を開くどころか控訴棄却としたもので、裁判所がすべてを闇の中に葬り去ろうとしていることは明らか。直ちに棄却決定が無効であるとして異議申し立て手続きを取ると同時に、可能な限りの手段を講じて裁判所の暴挙を糾弾していく。

 裁判所の決定が暴挙なら、弁護団の戦術は愚挙と言えるかもしれません。

 空気嫁という言葉を思い出しました。たしか2チャン用語ですよね。

 ところで、朝日はどうしていまだに松本智津夫と言わずに「麻原彰晃」と書いているのでしょう?

後注(決定要旨確認前)
 今日(H18/3/28)の読売朝刊によれば、昨年8月の時点で控訴趣意書はすでに完成していた、とのことです。
 しかし、松本被告の責任能力を争って提出を拒否したとありました。
 控訴趣意書は完成させておいて提出カードを持ったつもりだったのかもしれません。
 完成している控訴趣意書の提出拒否は、裁判所から見れば、弁護人の審理拒否にほかなりません。
 「松本被告と意思疎通ができず、趣意書が作成できない」というより、さらに審理拒否の意図が明瞭です。

 しかし、「松本被告と意思疎通ができず、趣意書が作成できない」という報道はなんだったんでしょう?
 弁護団の提出遅延理由について矛盾した報道があります。
 弁護団は虚偽説明をしていたのでしょうか?

続報
 高裁決定要旨

 趣意書は完成していたけど出さなかったみたいですね。

| コメント(10) | トラックバック(3) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

トラックバック(3)

『オウム真理教元代表、松本智津夫(麻原彰晃)被告(51)について、控訴審の東京高裁(須田賢裁判長)は27日、一審の死刑判決を不服とした弁護側の控訴を棄却し... 続きを読む

松本被告に対する弁護団の戦術と、山口母子殺人事件の弁護団の戦術が重なってしまう。 続きを読む

 オウム麻原裁判が死刑確定への動きになってきました。控訴趣意書不提出による死刑確定となると初めての事態、従って、最高裁への特別抗告のケースである程度(死刑... 続きを読む

コメント(10)

>裁判所の決定が暴挙なら、弁護団の戦術は愚挙と言えるかもしれません。

たしかにおっしゃるとおりだと思うのですが、
社会的に注目されている裁判がこれで確定してしまっていいのかな、という気はします。

どうなんですかね?

報道によると、控訴趣意書は作っており、裁判所にも持参したけれども、鑑定方法に不満があるということで敢えて提出しなかった、ということのようですね。
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060328k0000m040103000c.html

この弁護団、高裁の裁判官について罷免とか忌避の申立てをしているようですが、こうした戦術(?)は、刑事弁護としてよくあることなのでしょうか。だとすれば、裁判員に対しても忌避とか罷免(?)の申立てが乱発されることになるのですかね。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4900/news/20051122i406.htm
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4900/news/20051114i404.htm

 一審以上に何か新しいことが出てくるとは思えませんので、いいんじゃないかな、と思ってます。

 弁護士の訴訟戦術に関する議論が起これば、それなりに意味があるのではないでしょうか。
 規制強化の流れになると困る気がしますが。

PAMPYさん、こんばんは
 弁護団が持参したのは、控訴趣意書の「骨子」なんですね。
 今日提出を予定していたのも、「数ページの骨子」程度のもので、あとで補充するつもりだったようです。
 オウム事件の控訴趣意書が数ページですむはずがありませんから、この骨子というのは控訴趣意書の目次程度のものではないかと想像しています。
 原則として、控訴趣意書はあとで補充することが認められません。
 裁判所としては、そんなもの控訴趣意書に値しない、と見ているのではないでしょうか。

 忌避についてはあらためて書きます。

松本被告が控訴審になって意思疎通が出来ないということがなんか特別なことで、他に例がないから公判を停止するべきだ。
といった話に展開しているように感じますが、話が通じないのは裁判では珍しくないわけで、会話はしていてもまるでワケが分からないというのは、わたしが見ているカルト宗教問題に分類される事件ではほとんどです。

それでも裁判は止まらないわけです。

新聞で読んだのだと思うのですが、事件後(裁判中に)意思疎通が出来なくなると裁判を停止する日本のやり方は他国ではあまり無い、といった記事がありました。
ここらの世界の平均(?)はどんな様子なんでしょうかね?

「フェアプレーをしろ」・・・
おそらくその背景には裁判員裁判の導入があるのでは?
これを3年後に控えて裁判所は危機感を持っている。
山口光市,筋弛緩,オウムの一連の流れでそう思えます。ただ,山口光市の件は今のところ期日延期ですが,4月に止めを指すのではないでしょうか。
にもかかわらずこの弁護戦術。

>裁判所から見れば、なんでできる範囲のこともしないのか、ということになります。
私も、こう思います。

刑事訴訟法は、「控訴趣意書の提出がなければ控訴を棄却しろ」となっているわけですから、弁護人の採る手段としては、控訴趣意書の不提出はあまりにリスクが大きかったと思います。
被告人とまともな意思疎通ができない事件なんて何件かに1件はあるわけで、そういう事件でも被告人の利益のために最大限の努力をするのが、弁護人の仕事だと思うし、実際にそうしています。

松本被告は一審の死刑判決を聞いて、「なぜなんだ、ちくしょう。」と言ったと報道されています。
この発言が真実とすれば、松本被告は一審判決の意味を十分理解しているのですが、ま、それはそれとして、松本被告の発言を前提にすれば、モトケンさんご主張のとおり、一審の記録を精査分析して、弁護人なりに全面無罪の控訴趣意書を作成すべきだったのではないかと思います。

これから、高裁、最高裁がどういう判断をするのか注目したいです。

素朴な疑問なのですが……
被告人の素性等はさておき,結果として弁護士は被告人の「裁判を受ける権利」を×にしてしまったように思えます(彼が裁判を受ける気がなかった,という意見があるかもしれませんが,それはひとまずおいておきます)。
これって弁護士の義務(基本的人権の擁護とか,たしか弁護士法のアタマにあったと思います)違反,のように感じるのですが,懲戒処分,ということにはならないのでしょうか。

控訴棄却はオウムの思う壺かなと思います。
宗教家にとって、死刑は敗北ではない。
むしろ、「不公平な裁判で殉教した」という宣伝ができることが勝利になる。

裁判所は横綱相撲で勝てるのに、詰めを雑にして「不公平な裁判」という口実を与えてしまった。

もちろん法律的には「不公平な裁判ではない」と言えるでしょうが、「不公平な裁判だ」という法律的議論を完封できるものでもない。

大局的に見て、訴訟指揮は失敗だったと思います。

たくさんのコメントありがとうございます。

>kobito さん
 懲戒の可能性はありますね。

>無記名さん
>大局的に見て、訴訟指揮は失敗だったと思います。

 殉教宣伝については、遅かれ早かれの問題でしょうね。
 弁護人の訴訟戦術を容認すれば、それこそ大局的に見て大きな禍根を残したと考えています。

法律相談へ

ブログタイムズ

このエントリのコメント