村岡元長官に無罪判決 1億円ヤミ献金事件(asahi.com 2006年03月30日20時46分)
3月のせいか、最近無罪事件が多いですが、インパクトの大きいのはやはりこの事件でしょうか。
報道によれば
判決はまず、滝川元会計責任者の証言について(1)事件発覚前に証拠隠滅などをしているのに「逮捕前は1億円の献金を完全に忘れていた」と述べるなど不自然(2)幹部会での各議員の発言などについて供述に変遷があり、思い込みや想像で供述したと自ら認めた部分もある(3)幹部会の開催時間は短かったと考えられ、領収書問題を話し合う時間があったか疑問がある――などと指摘。「不自然・不合理な内容が含まれ、記憶に基づくことなく証言している節がうかがえる」と述べた。そのうえで、虚偽の可能性がある供述をしたと考えられる理由についても言及。「1億円の献金は実質的には橋本元首相に対する個人的なものだった可能性がある」と指摘したうえで「橋本元首相が巻き添えになったり、自民党に事件が波及して不透明な献金処理が明らかになるのを防ぐため、落選・引退した幹部の名前を挙げ、信憑性(しんぴょうせい)の高さをうかがわせる虚偽の供述をした可能性がある」と述べた。(朝日)
後段の点はともかく、前段の指摘は検察にとってかなり厳しい指摘なのではないかと思います。
検察としては、大面子があるでしょうから、東京地検の伊藤鉄男次席検事は「判決の認定には到底承服しがたく、控訴する」との談話を出したそうですが、立て直すのは難しそうだな、というのが外野の感想です。
村岡元官房長官に無罪判決…1億円ヤミ献金事件(2006年3月30日20時22分 読売新聞)
判決は、2001年7月、東京都内の料亭で日歯側から1億円の小切手が提供された際、橋本竜太郎元首相(68)、青木幹雄・自民党参院議員会長(71)、野中広務・元同党幹事長(80)が同席していたことや、翌年、滝川元責任者が1億円を記載しない収支報告書を総務相に提出したことを認定した。(読売)
憶測混じりの無責任意見ですが、検察の起訴は、どうも尻尾の切りどころを間違ったのではないかな、という感じです。
落合弁護士のブログの記事(追加 さらにこの記事)が参考になります。
「特捜神話」はかなり以前からほころびを見せ始めたように思っていますが、たしかに過去のものという感を深くします。
この判決が、今後、上級審で覆らず、このまま無罪で確定することになれば、東京地検特捜部の捜査能力に極めて大きな疑問符がつき、その威信が大きく低下して、今後の政界捜査への影響ということも現実的に出てくる可能性もあると思います。(落合弁護士)
私が最も心配するのはこの点です。
こんばんわです。
私は法律は素人ですが、この事件で有罪は無理だろうなと思うですよ。村岡さんはこんなのに関われるほどの大物でもないし。受け取った人が不起訴で、帳簿操作した人が起訴ってのも良く分からないし。野中氏の偽証も読売で指摘されてたけど、何故か起訴猶予だし。
変な事件ですよ。
keiko さん
コメントありがとうございます。
そうですね。
起訴当時の証拠の全体像がどのようなものであったのかわかりませんので、無責任なコメントになりますが、村岡氏だけが起訴されたことから、なんとなく落ち着きの悪さを感じていました。
>矢部先生
共犯者の自白にはいわゆる「巻き込みの危険」がありますから、その信用性についてはよくよく検討されるべきなのは言うまでもないのでしょうけど、その結果ここまで完全に信用性が否定されたのならば、その供述を根拠に有罪を宣告した会計責任者に対する裁判はいったい何だったんだ、という気になってしまいます。
(会計責任者自身は不記載の実行犯であって、誰と共謀していようとその有罪認定にはさほど影響がないのかも知れませんが。)
自白事件といっても安心できませんね。
an_accused さん、こんにちは
共謀共同正犯というのは、つまるところ相談に基づいて罪を問われるというものですから、その主要な証拠は供述ということになります。
ところが人間は嘘をつく動物ですから、結局、供述の信用性で勝負が決まる場合が多いのですが、本件は、検察が大黒柱としていた供述がへろへろになったようですね。
新聞などで、捜査が不十分だったという指摘がなされていますが、大黒柱の取調べが十分であったかどうかとともに、その供述を支える証拠が十分でなかったということではないでしょうか。
昔は、特捜検事の作る検面調書は絶大な信用性を認められていましたが、かなり以前からそうではなくなっているようです。
特捜神話の崩壊の象徴的現象です。
特捜神話の崩壊といっても原則に立ち返っているだけですので、結局は、筋の通った供述を丹念に周辺証拠で裏づけ、基礎付け、補充するという捜査が必要だということでしょう。
在宅起訴時から、私もそしてマスコミも、これは何かおかしい!と感じていたように思います。
シッポの切りどころとしては、大分世間の感覚と特捜部の感覚にズレがあるように感じ、この点は非常に大きな問題なようにも思います。
ライブドアにはあれだけの捜索をしておきながら、NECEの粉飾決算疑惑についてはまったく触れない点も、正直微妙な感じです。東京地検特捜部は、しっかり機能しているのでしょうか?
今回の件で、特捜部も自民党には逆らえないのか!と思う国民はかなりの数にのぼるのではないでしょうか。
びあさん
>大分世間の感覚と特捜部の感覚にズレがあるように感じ、
これはあると思います。
検察の感覚として、自らが権力機関であるという自覚がありますが、そのことによるズレというものが結構大きいと思います。
検察は自分たちの権限の大きさとその限界というものを常に意識しています。
>NECEの粉飾決算疑惑についてはまったく触れない点
たぶん、検察の人手不足という面も影響しているのではないかと
>今回の件で、特捜部も自民党には逆らえないのか!
自民党の中枢と本気で喧嘩するというのは、相当の材料と覚悟がないとできませんよ。
別のエントリーで謙抑性という小綺麗な言葉を使って誤解を招きましたが、場合によっては文字通り組織の存亡をかけるような戦いになってしまいます。
>たぶん、検察の人手不足という面も影響しているのではないかと
違うと思います。
ライブドアの時でさえあれだけの大騒動になったのだから、NECEの件や類似の件を一つずつ潰していったら、それこそ市場に大混乱をもたらします。
検察もいい加減それをわかってるから手を出せないのだと思います。
ほんとのところは
同じパターンの事件を続けてやっても面白くないと思ってるのかもしれません。
半分冗談ですけど
はじめまして。TBありがとうございました。
今回の事件は少し筋が悪かったように思いますが、「特捜が動くからには悪いことをしていたんだろう」という、いい意味での特捜神話は抑止力として必要だと思いますので、検察の方にはがんばってもらいたいですね。
冤罪事件が頻発するのは困りものですが、政治家相手の事件は、物証を押さえるのが困難を極めているのでしょう。
tomber さん
コメントありがとうございます。
ちょっと揚げ足取りかも知れませんが、
>「特捜が動くからには悪いことをしていたんだろう」
こういう意識は、本当は困りものなのです。
検察起訴 → 有罪推定
というのは、現在の刑事司法の問題の一つです。
しかし、tomber さんの言いたいことは、特捜が手を付けた以上、事実が解明されてきちんとした処分がなされる、という特捜に対する信頼感、犯罪者からみれば特捜に対する恐怖感、というものが犯罪抑止力として必要だということだと思います。
>政治家相手の事件は、物証を押さえるのが困難を極めているのでしょう。
そういう事件が多いと思います。
特捜には、そのような困難を乗り越えて、警察が手を出せない権力犯罪を追及する強力な捜査能力が期待されています。
そして、これは警察も検察も全く同じですが、捜査能力の最大の基礎は国民の信頼であると思います。
私も検察に頑張って欲しいと思っています。