エントリ

 ビートニクスさんが、「法と常識の狭間で考えよう」において、「防犯カメラに犯罪抑止力があるのか?」という記事を書かれています。

 全体の論旨には特に異を唱えるところは少ないのですが、

そもそも、防犯カメラは「防犯」、すなわち、犯罪の予防のために設置されている。しかしながら、今回の事件でも、犯罪が起きた後の犯罪捜査に役立つことは示されたが、犯罪の予防や抑止には役立たなかったのである。
ただ、今回の事件では、マンションに18カ所も防犯カメラが設置されていたが、それでも事件は発生したのであるから、防犯カメラの犯罪抑止効果はなかったとしか言いようがない。

というような言い方は、防犯カメラの防犯効果ひいては犯罪抑止力一般の議論を混乱させかねないという危惧を感じるので、少し意見を述べさせていただきます。

  そもそも犯罪抑止力(以下、たんに抑止力といいます)というのは、犯罪は完全に抑止する力を意味する言葉ではありません。
 もし犯罪を100%事前防止する力という意味で抑止力をいう言葉を使うならば、この世に抑止力は存在しませんし、今後も存在し得ないでしょう。

 刑法(刑罰法規)の主要な目的は、犯罪抑止であることに疑いはありません。
 しかし、刑法199条(殺人罪)の規定の存在にかかわらず、殺人事件は発生しています。
 だからと言って、刑法に抑止力はないと言うべきなのでしょうか。
 私はそうは思いません。

 つまり、抑止力というのは、犯罪をなくす力ではなく、犯罪を減らす力と理解すべきなのです。
 
 そして、刑罰法規の抑止力というのは、刑罰による威嚇力をその本質としますから、現実に刑罰を受けることの可能性の程度が刑罰法規の抑止力の実効性を左右します。
 簡単に言うと、検挙率が抑止力を左右するということです。
 何をやっても捕まらないならば、抑止力はゼロです。
 100%逮捕されて有罪判決を受けるということになれば、最大の抑止力が発揮されます。
 但し、最大の抑止力というのは、前述のように、100%犯罪を防止するという意味ではありません。
 犯罪を減少させる力が最大に発揮されるという意味です。

 防犯カメラは、検挙率を向上させるという意味において、抑止力アップに効果があると考えられるのです。

 但し、抑止力は誰に対しても、どんな場合でも有効かというとそうではないということも認めなければならないと思います。

 ビートニクスさんのブログで引用されている追手門学院大学の松野凱典教授(犯罪心理学)のコメントの

防犯カメラが犯罪抑止に有効なのは、空き巣の常習犯など計画性のあるタイプの犯罪者に限られる。抑止効果を過信すべきではない。

というのはまさにそのとおりだろうと思います。

 問題は、防犯カメラがいかなる意味においてどの程度犯罪防止に役に立つのかというその効能と限界をきちんと理解した上で、、また使い方によってはビートニクスさんが指摘するとおり「監視カメラ」に転化する恐れもあることを忘れずに、その設置の当否を考える必要がある、ということだと思います。

ただ、今回の事件では、マンションに18カ所も防犯カメラが設置されていたが、それでも事件は発生したのであるから、防犯カメラの犯罪抑止効果はなかったとしか言いようがない。

と言ってしまうと、そのような議論を誤導する恐れを感じましたので、コメントした次第です。

トラバ先はてな
http://d.hatena.ne.jp/untitled_blog/20060403/1144021041
http://d.hatena.ne.jp/kmizusawa/20060402/p1#tb
http://d.hatena.ne.jp/oguogu/20060402/1143964193

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コメント(11)

どちらにコメントすれば良いのか迷いますが(^_^)

「犯罪抑止に直接の効果は少ない」といった表現であれば「当たり」なのかもしれません。

この地図はわたしの住んでいる地域の犯罪マップです。

http://www.police.pref.kanagawa.jp/map/crime/html/mesd0801.htm

空き巣で見ると、我が家のある地域の隣の地区の被害が意外と多いなんて事が分かりますが、我が家の周辺の家庭用の防犯カメラやライト、警備会社との契約の普及はものすごいもので、カメラ類は10軒に1軒ぐらい、警備会社のステッカーは一軒おきに見える、といった具合です。

これで空き巣が減って、後から住宅が建った地区では空き巣が多いと言えるのだと感じます。

こんな傾向からも、これらが少なくとも空き巣の抑止に役立っていると考えて良いでしょうが、防犯カメラが直接的に犯罪を抑止するというの冷静に考えると説明がつかないことですから「防犯カメラが直接的に犯罪を抑止する」と言っては間違えでしょうね。

しかし、「カメラがある」と知っていれば特に計画的な犯罪は減るでしょう。
だから「防犯カメラに全く犯罪抑止効果がない」というのも違っています。
路上監視カメラに予算を割くのは税金の使い道や効果として検証や監査する対象ですが、マンションや個人の住宅などが自費で防犯カメラを設置するのは民間の普通の人が負担しうる金額まで機器の価格が下がったのですから、直接的な費用についてことさら問題にするほどではない、といえるでしょう。

我が家でも訪問者など見るカメラを付けようかとちょっと前から考えています。

むしろ今後問題にするべきは、監視カメラの使用方法というかマナーの問題で、どこかで法的なガイドラインを作るべきだと思ってます。

こんにちわ。

そもそも論については、我々の気持ちの問題が大きいかと思います。

常に誰かに行動をモニターされている状況を、あるかもわからない抑止力(あえてこう書かせていただきます)と引き換えに容認できるかということです。わたしのような人間には最近の歌舞伎町はどうも居心地が悪い(笑)。これについての議論はどうもすっとばされているようなので、まあ大勢は決したといってもよいのでしょうか・・・

 「オレは悪いことしないからい〜もん」と真顔で言う人には鉄槌を食らわしたいですね。

運用面については「酔うぞ」さんのおっしゃった通りかと。
最近の技術については詳述できるほどの知識はありませんが、デジタルデータとして保存されていれば必ず流出の危険が伴うと思いますから。

それにしても一方で盗撮超危険〜といっておいて、一方では監視カメラ超必要〜というのも何だかなあと。

 「オレは悪いことしないからい〜もん」と真顔で言うから、鉄槌を食らわせてもらいましょうかね?

「最近の歌舞伎町はどうも居心地が悪い」ようなクズが、普通に真面目に生きている人間に食らわすのは「鉄槌」じゃなく単なる暴力だし、そんなクズがいるから防犯カメラが必要になるんですがねw

防犯カメラや厳罰化は犯罪の抑止力にならないという妄説は、防犯カメラや厳罰化で実際に犯罪を思いとどまった犯罪者予備軍が一人でも存在していれば簡単に崩れてしまいますね。

 防犯の専門家としては、今回の場合がイレギュラーであって欲しいという願いをこめて「防犯カメラの犯罪抑止効果は残念ながら今回の場合はなかったようだ。」と書かせてもらいました。

 防犯を目的にカメラを設置する場合、犯罪の100%阻止は無理だが、予測される犯罪者の心理状態を逆手にとり何もしない無防備な環境よりは少しでも犯罪件数を減らしたいという考え方で設置されます。ところがカメラを設置した後は、逆に防犯意識が低下するのが常で、設置したことで安心してしまうようなところがあります。

 また、今回は残念ながら通常想定している犯罪者心理では説明のつかない事案であり、「防犯カメラの犯罪抑止効果」が有効に作用するような加害者ではなかったという意味で『〜今回の場合はなかった〜』としたわけです。

 防犯を生業とする小生としては、カメラと連動して威嚇効果を持つツールなどを使っていればどうだったかなと考えてしまいます。但し、監視社会と防犯カメラはその運用をめぐっても奥深いところで「プライバシー」と「犯罪被害の未然察知」のバランスの問題等に話が発展すること必至の状況。まして起こっても無い事件や犯罪について論ずることはなかなかしない(できない)というのが世間一般のようです。

 夢として「犯罪抑止率100%」を目指しているのですが、道徳観、倫理観の格差も大きく、なかなか難しい壁に阻まれることが多いのが現況です。

防犯カメラの記事、リンクが間違ってました。すみません。

酔うぞ さん
 何か大きな問題が生じないとガイドラインの議論は進まないような気がします。
 いつものことですが。

Aequitas さん
 世の中をなんとかしようとすると、必ず諸刃の剣になりますね。

SM さん
 居心地の悪い人が常に暴力的とは限らないですよ。
 抑止力の実証という議論は、死刑存廃論でいつも問題になりますが、機会があれば書いてみたいと思います。

Shibu_yan さん
 犯罪抑止は、一つの手段だけでは有効性に限界がありますね。
 人類の永遠の課題だと思います。
 社会全体のバランスの中でより良い方法を模索していくしかないのかもしれません。

 日経新聞が、今回の事件で逮捕された被疑者が、「防犯カメラを知っていた」という供述をしているということが報道されていました。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060405AT1G0500M05042006.html

 Shibu_yanさんが指摘されているように、この事件の被疑者の場合には、通常の犯罪心理では説明できない事案なのかもしれません。ネットの中では、責任能力に疑問があるのではないかという指摘も見られるところです。

 「防犯カメラ」の設置だけでは犯罪抑止にならず、様々な方法を複合的に取り入れて工夫する必要があるのかもしれません。

 

ビートニクス さん、こんばんは
 今回の事件の被疑者の精神状態については各所で書かれているようですが、デリケートな問題がありますね。
 また、それとは別の観点で犯罪の事前抑止を追及すると、共謀罪等のかなりきな臭い議論につながっていくような気がします。
 刑事司法的アプローチには限界と弊害が常に問題になりますので、社会科学や心理学等の知見を総動員して対策を考えなければならないと思っています。

ここのサイトで詳しくとりあげています、
http://asahitelevision.com/atv/
とても参考になりました。コストをかけない実験もおもしろく、こんなことができるんだなぁと感心しました。

防犯カメラに限らず、犯罪を抑止出来た場合、それはニュースにもならないし、思いとどまった人以外は知り得ない。
防犯カメラに限らず、犯罪を抑止出来なかった場合、それはニュースにもなるし、多くの人に知らされる。

細川 さん
 要するにそういうことなんですね。

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