エントリ

取り調べ録画 最高検「特命」6人、極秘推進(asahi.com 2006年05月10日07時14分)

「青天のへきれきだ」。東京地検の幹部は、ビデオ録画・録音の導入決定に驚きの声をあげた。

 最高検も大胆なことをしたものです。
 現場がびっくりするのは当然ですね。

チームでは、裁判員制度の審理対象となる殺人などの重大事件の裁判のうち、過去3年間で調書の任意性が争われた事件をテストケースにして検討を開始。膨大な資料を読み、特に問題化しそうな約30件について話し合う中で、「裁判員なら不信感をもたれて無罪」という、検察側にとって深刻な結論に至ったものも出てきたという。

 検察幹部の一人は「プロの裁判官は検察にある程度の理解があるが、市民から選ばれた裁判員はそうはいかない。検察に厳しい視線を向けている」ともらした。

 前のエントリでの想像が当たったようですね。
 でも、この検察幹部のつぶやきは深読みするとかなりやばい内容です。
  できるだけ穏当な表現で言いますと、裁判所の検察官に対する過大な信頼によってかろうじて任意性が認められていた自白調書がある、ということを意味します。

最高検幹部は「任意性を確実に証明できる、検察の新たな武器にしたい」と語った。

 つまり、検察官による検察官のための取調べ録画である、というわけですが、これは当然のことであります。

 ところで、今回試行される内容は

最高検は「供述調書が適正に作られたことを公判で証明するのが狙い。取り調べの機能を損なわない範囲で、検事が相当と認める部分の録画・録音を行う」としている。(前回の記事)

というものであり、検察官の裁量によって録画の有無・範囲を決めるというもので、全取調べを録画することを義務づけるというものではありません。

 この点について、検事側からも

また、別の幹部は「弁護側から有利な時だけ記録する『ご都合主義』と批判される」ともらした。

という声が上がっており、Matimulogの町村先生は「取り調べの瑕疵化?」(誤記にあらず)において

バカじゃないのか?

と酷評されています。

 しかし、今回の可視化の動きが裁判員対策であるならば、そしてそれが本気であれば、いいとこ取りの録画などでは済まないことは検事なら誰でもわかることです。
 自供の信用性と任意性を確認するのに最も重要なタイミングというのは、取調べの初期の供述内容と供述態度及び供述の変遷、変更の瞬間の状況です。
 つまり取調べにはいくつかのターニングポイントがあり、そのターニングポイントはいつ生じるか分からない場合が多いと思います。
 そのようなターニングポイントを的確に捉えるためには、結果的に全面的な録画をするしかないのではなかろうかと考えます。

 過去の事件に見られる、取調官が作文した調書の棒読みのような録音テープと同じようないいとこ取り録画で騙されるほど裁判員は馬鹿ではないでしょう。
 そしてそのことが分からないほど検察庁は馬鹿ではないと思います。
 ただし、ひょっとして存在するかもしれない例外的な裁判員のことを考えますと、弁護人がしっかり弁護活動を行うことが必要不可欠です。

追記その1
 はてなTBリンク
 STAY HUNGRY, STAY FOOLISH
 ピカップ

追記その2
 かなり強烈な反対意見です。
 共謀罪隠しか?!〜検察官の取調が録音録画化へ〜百害あって一利なし(情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士)

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コメント(8)

TB有り難うございます。

ということは、やはり一部録画なんてのは「バカじゃないか」というべき方法ですよね。

町村先生
 検察官の取り調べの場合は、その前に警察官の自白調書がある場合が多いですから、警察官の自白調書の任意性と信用性の確認という意味の検察官調べがかなりあると思いますので、その時点だけ録画するというのもありかと思いますが、取り調べの最終段階のまとめ調書の作成だけ録画するなんてのは「バカじゃないか」じゃなくて、「バカそのもの」だと思います。

 検察が、供述の任意性を確保するために最も効果的と思えるポイントは、被疑者側から見ても任意性に疑問があることを示す最大のチャンスになりえます。

 いずれにしても、かっこだけつければいい、と思ってたら強烈なしっぺ返しをくらいますから、検察としては、やる以上は本腰を入れないと検事の取調べ全体に対する信頼を失いかねない事態が生じるかも知れません。

TBありがとうございます。
余り深く考えずに大きな第一歩だと思ってたので、
記事を読ませていただき大変勉強になりました。

 取調べの可視化なんて,諸外国ではとっくに取り入れられ,日本でも,学界や弁護士会は昔から要請していたにもかかわらず,検事にとっては晴天の霹靂なんですね。いかに時流から隔絶され取り残されているかがよく分かる検事のコメントでした。

ぜひ、モトケン先生の観測通り、検察としても本腰入れて「公正な」手続をつくっていくといいと思います。

ということは、私が裁判員に選ばれたら、

「あなたは○○さんを殺しましたね」
「いいえ」
「でも、あなたは以前から○○さんを以前から知っていましたね」
「はい」

の途中をつまんで

「あなたは○○さんを殺しましたね」
「はい」

にしているのを見破る能力を要求されるということですね :-)
自信ないなあ。

冗談はともかく、この手のインチキの技術が進んでいるぶんだけインチキをしていないことの証明は難しくなっているのだから、インチキしていないことの証明法を今から用意しておかないと、無意味な映像を流して時間を無駄にするだけになってしまいます。

wd さん
 ザ・スクープでは録音テープの編集痕を問題にしてましたが、ビデオ録画ならもっと露骨にばれてしまうでしょうね。
 SF映画なみの技術を使えば一見してはばれないかもしれませんが、金がかかりすぎますね。
 冗談はともかく、不正というのはいずればれますから、そのときのダメージを考えたら姑息な真似はできないと思います。

 取調べの全面録画をすれば、調書を作らなくていいのかな、それなら取調べがすごく楽になるな、などと思っている検事がいるかもしれません。
 が、そういうわけにはいかないでしょうね。

モトケンさん、こんばんは∈^0^∋
さいきん、こまめにトラックバック有り難うございます。
トラックバックをさせていただこうと思っているのですが、ココログの調子が悪くて、数十回行っても、proxy errorの発生でできません。
 気長に、後ほどつけさせていただきます。
くまさんことくまボンでした。ではでは(^.^)/~~~

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