エントリ

 落合弁護士が東京新聞のインタビューを受けられたようですね。
 相談なしでも摘発(東京新聞特報)

 コメントに値する内容が多い記事ですが、いくつか思いつくままに書いてみます。

落合氏も「将来、裁判所が『必要な準備』には、犯罪に間接的に必要な場合も含むと解釈する可能性が十分ある。相当広範囲なもの、例えば、実行犯に靴や電車賃を貸す行為などが『犯罪に必要な準備』に該当するとされる可能性は十分ある」と話し、拡大適用の防止は条文を厳格にする以外ないと指摘する。「裁判官は条文で考える。付帯決議など、いくら、やっても関係ない」。その裁判官についても「犯罪への危機感を強めており、共謀“らしきもの”まで共謀と認定する流れにある」と指摘する。

 裁判所には、以前から処罰する必要がある場合には少々の手続的違法があっても処罰するという姿勢が感じられます。

共謀罪と似た法律用語に「共謀共同正犯」がある。犯罪を謀議した仲間の誰かが実行行為に踏み切れば、他の仲間は実行しなくても共犯になるものだが、落合氏は、捜査・裁判実務で共謀共同正犯の拡大解釈が進んでいると指摘する。

 共謀共同正犯の拡大適用の傾向も同じ流れだと思います。

 問題は、裁判所のバランス感覚がどこまで又はいつまで信頼できるかだという気がしています。

ところで、捜査現場は共謀罪を必要としているのか。オウム事件捜査などを手がけた落合氏でさえ、必要性は感じなかったという。共謀罪があれば地下鉄サリン事件も防げたのか? 「防げない。事前情報がなかったからだ。逆に情報さえあれば共謀罪なしでも防げた。教団施設への建築基準法違反罪適用など手段はいくらでもある」

 「現在でも、情報さえあれば、犯罪実行前に検挙できている。公安の場合、その当否はともかく、ホテルに偽名で宿泊した、免許証に虚偽が書かれているなど、さまざまな理由を見つけて文書偽造罪、免状不実記載罪などを適用している。共謀罪がないから捜査できない切迫した事情はない」。落合氏は断言する。「組織犯罪は秘密裏に動くから、共謀罪ができても共謀罪で捕まることはないだろう。むしろ、NGOや労組などに使いやすいと思う」

 落合弁護士自身が「その当否はともかく」と指摘されているように、現時点においてもNGOや労組を捜査対象にしようと思えば、軽微な文書偽造罪を適用することは可能であるということは忘れないほうがいいでしょう。
 とは言うものの、如何に軽微とはいえ文書偽造罪を適用するためには文書偽造行為が必要ですから、そのような明確な構成要件該当行為を要求しない共謀罪は、手段的捜査つまり別件逮捕を極めて容易にする法律であることは間違いありません。

「共謀罪は共謀だけで成立するから、ある意味、怖いことだ」と落合氏。「相手が暴力団だから、いいじゃないか」と思うか、「明日はわが身。拡大解釈は危険」と感じるかは国民しだいだが、落合氏は言う。「日本では起訴されなくても逮捕、家宅捜索されるだけで大打撃だ。共謀罪には、起訴に持ち込めない相手を社会的に葬る手段として、十分過ぎる力がある」

 どうも最大の問題はここにあるように思われます。
 実際に危険な犯行を共謀していて、起訴することによって裁判所でそれが確認されるのであれば法適用が正当化されるかもしれませんが、現在の逮捕・勾留に関するルーズな令状実務を前提にしますと、落合弁護士の危惧は極めて深刻なものと受け止めなければなりません。
 起訴されない事件は、裁判所のチェックを受けることがありません。

休日出勤もいとわず、時に千万円単位の私費を使って、数十年がかりで暴力団内部にネタ元を築く刑事たちの中にも共謀罪の弊害を危惧(きぐ)する声がある。

 「自分をさらけ出さなきゃ、ホシ(容疑者)って落ちないんですよ。こっちの人間性を信用したら真実を喋(しゃべ)る。くさいセリフだけど、相手が犯罪者でもハートが勝負。私は、ずっと、このやり方だ。自供したホシに裁判で無罪主張されたり、『刑事に供述を強制された』なんて主張されたことも、一度だってない」

 刑事とは、容疑者や周辺関係者と人間関係を構築する地味でしんどい作業の繰り返しだ。「いったん相談したら、自首しないかぎりは罪になる」と迫る「共謀罪」は裏腹の発想だ。「法案を作った警察庁キャリアは…ああ、作ったのは法務省ですか。じゃあ、法務官僚たちは、現場をご存じないんじゃないでしょうか」。刑事や検事、検察事務官などが私生活を犠牲にして構築してきた捜査手法に、共謀罪がどんな影響を及ぼすのか−こんな重要なことさえ、国会では論議の一つも行われていない。

 暴対法制定当時も似たような議論があったと思います。
 暴対法は暴力団捜査のあり方に大きな影響を与えました。
 共謀罪法案も、単に処罰の範囲を広げるというだけでなく、それに伴って捜査のあり方に重大な影響を生じさせる恐れがあり、濫用適用はまさに捜査段階において問題になりますから、犯罪成立要件としての共謀罪法案の文言の検討だけでなく、濫用的捜査に対する事前防止策、事後的審査などを含めて広汎に議論される必要があるように思います。

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コメント(4)

>矢部先生
 「犯罪成立要件としての共謀罪法案の文言の検討だけでなく、濫用的捜査に対する事前防止策、事後的審査などを含めて広汎に議論される必要があるように思います。」とのご指摘は、まったくおっしゃるとおりだと思います。

 さて、「現在の逮捕・勾留に関するルーズな令状実務を前提にしますと、落合弁護士の危惧は極めて深刻なものと受け止めなければなりません。」とのご指摘ですが、令状を請求する側におられた先生のご印象として、やはり裁判官の令状審査は「ルーズ」なのでしょうか。

 以前、寺西和史判事(当時判事補)が新聞紙上で「裁判官による令状審査は極めてルーズである」という趣旨のエッセイを発表なさり、物議を醸したことがありました。そのときには他の裁判官から「たしかに令状請求の却下率は極めて低い。しかしそれは、裁判官が令状審査の際に疑問があれば請求者に疎明資料を追加提出させ、それでも令状発布の必要性が感じられないときは請求を取り下げさせているからである。」といった旨の反論がありました。
 「請求の取り下げ率」といったものは表面に出てきませんので、外部者は「そういわれればそうか」と思わざるを得ないものの、釈然としなかった覚えがあります。

 本論から若干ズレますが、疑問に感じていましたので、ご質問させていただきました。

 ルーズかどうかは裁判官によりけりという面があります。
 やたらと却下するので警察や検察の現場がとても苦労する裁判官もいれば、検察官が自己規制を考えるほどルーズな裁判官もいます。
 一般的な印象としては、令状請求の形が整っていれば出すという印象を持っています。
 限りなく形式審査に近いのではないかという印象です。
 私も統計を確認したわけではありません。
 裁判官の方から反論があれば歓迎します。
 無記名は困りますが、ハンドルネームでけっこうです。

>矢部先生
 お答えをいただき、ありがとうございます。
 以前何かの雑誌で、裁判官の間では、勾留請求却下が準抗告で覆ることを「黒星」と称し、人事評価に響くものとして捉えられていたという記述があったことを思い出しました。

 濫用的捜査に対する事前防止策、事後的審査などを含めて広汎に議論しようといたしますと、令状審査の問題は避けて通れないですね。

an_accused さん
 「黒星」の話は初耳ですが、さもありなんという気がします。
 判決について、裁判官は弁護人控訴や被告人控訴は気にしないが、検察官控訴は気にするという話は聞いたことがあります。

>令状審査の問題は避けて通れないですね。

 令状がなければ警察はお手上げですからね。
 刑事司法における権力濫用の要は裁判官である、と言うことができます。
 私は学生によく裁判官の権力性を話します。

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