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 これまでの調べに対し、畠山容疑者は「彩香は4月9日午後4時ごろ、『人形を見せに行ってくる』と言って自宅を出たまま戻らなかった」と供述していた。

 新たな供述によると、同日夕、自宅で彩香ちゃんと2人でサクラマスの描かれた漫画を読んでいた。彩香ちゃんが「見に行きたい」と言ったため、「一緒に見に行こう」と軽乗用車に乗り、自宅から約3キロ離れた藤琴川の大沢橋まで行った。彩香ちゃんは畠山容疑者に支えられ欄干に上り川を見ていたが足を滑らせて転落したという。畠山容疑者は同日午後8時ごろ同署に捜索願を出した。

 彩香ちゃんの遺体は翌10日午後1時半ごろ、同橋から約4キロ下流の浅瀬で見つかった。死因は水死だった。捜査本部の調べで、4月9日夕、同橋に畠山容疑者のものとみられる軽乗用車が止まっていたのを複数の人が目撃。女性が橋の上で子供を抱き上げている姿を見た人もいたという。

 捜査本部は当初、彩香ちゃんが自宅近くの河原で誤って足を滑らせた事故死との見方を強めていた。しかし、(1)当時、転落現場付近の水量が少なく、遺体が1日で7キロ流れるのは困難(2)彩香ちゃんの頭に軽度の骨折の跡がある−−などから、事件に巻き込まれた可能性もあるとみて豪憲君殺害事件と並行して捜査を継続。今月10日、彩香ちゃんに見立てた人形を同橋付近から流し検証した。欄干から川面までは約5メートルで、遺体の傷と矛盾しないか調べている。

 豪憲君殺害事件の動機に関係するとして注目されていた彩香ちゃん水死事件について、被疑者の供述の変遷が報じられました。

 問題点が二つ感じられます。
 いうまでもなくこのような情報は警察からしか得られませんから(記事にも「県警能代署捜査本部の調べに対し、」とあります)、警察がリークしたことを前提に書きます。
 
 まず1点目は、報じられた被疑者の変遷後の供述についても全面的に信用できないにもかかわらず、警察からマスコミにリークされた点です。
 目撃情報もあり、彩香ちゃんの頭蓋骨骨折等の解剖結果に照らして、外形的事実関係(彩香ちゃんが橋から落ちて水死した)は間違いないという判断があったのかも知れませんが、落ちた原因については被疑者の供述を信用できる状況にあるとは認められませんから、つまり、現在の供述は虚偽が混じった中途半端な供述である可能性があるのですから、今の段階でこのような詳細な供述状況をリークすることは、捜査上のメリットは何もなく、弁護側の防御を固めるだけだと思います。

 次に問題になるのは、弁護人の今までの記者会見の内容との整合性と今までの記者会見が将来の公判に及ぼす影響です。
 現在の供述がより真実に近いとしますと、これまで被疑者は弁護人にも虚偽供述をしていたことになり、それを弁護人は逐一記者会見を開いて発表していたことになります(「何で彩香いないのか」容疑者が動機語る…弁護士会見(2006年6月9日16時18分 読売新聞))。

 私は、以前に

今回のように、詳細な自供を明らかにする場合は、被疑者の自供が真実であり法廷でも争わないという絶対的確信がなければならないと考えます。(秋田小1殺害事件で弁護士が記者会見

と書いたことがあります。

 なぜかと言いますと、弁護士に対する供述の変遷があからさまになった場合、様々な意味で公判における弁護活動の足かせになる可能性があるからですが、どうも危惧は当たったかもしれません。

 「当たったかもしれない」と言いましたのは、結果としては当たっていないかもしれないからです。
 つまり、今回の被疑者の供述の変遷を踏まえてこれまでの弁護人の記者会見が今後の捜査や公判にどのような影響を与えるかについては、今のところ予測がつきかねています。

 弁護人が、今回の報道から窺われるような、彩香ちゃん転落時の目撃情報や骨折についてどの程度の情報を得ていたのかわかりませんが、一般論的な意見としては、必ずしも十分でない周辺情報しかないのに、接見における被疑者の供述に基づいて事件の全体像を把握するのは、とても難しいと思います。

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コメント(8)

私は、この事件については、真実がどこにあるのか、わかりつらい。目の前の報道だけでは判断できない複雑さを持っていると思っています。

>モトケン先生
 先生のお言葉どおり、後の公判を考えれば、弁護人は安易に接見内容を公表すべきでないと考えます。本件の弁護人も、積極的に接見内容を公表したいとは考えてはいなかったのではないでしょうか。
 ただ、前回のエントリーにおいて疑問者氏がご指摘になっておられるように、弁護人の記者会見は、被疑者の親族を過剰取材の矢面に立たせないと記者クラブに約束させるために、被疑者同意の上、交換条件としてやむを得ず記者会見に応じたという事情があるようです。

 過剰取材そのものに問題があるのですから、報道機関側がこのような申し合わせを弁護人との間で行おうということ自体「盗人猛々しい」と言わざるを得ません。また、過剰取材を控えさせたいという理由で、被告人の利益を擁護すべき立場に居ながら被疑者の不利を招くかも知れない行動をとる弁護人が全く正しいのかというとそう言い切れないような気もします。

 被疑者にとって不利な内容を含む取調べ状況がどんどん捜査関係者からリークされ、それが過剰報道によって既成事実化していくとともに、被疑者の親族にまで過剰取材の被害が及ぶという事態に至ったとき、弁護人が取りうる行動はどのようなものでしょうか?弁護人の本来の任務は捜査・公判過程における被疑者・被告人の利益擁護であるとして、捜査機関のリークや過剰取材などについては超然としているべきでしょうか。それとも、被疑者・被告人が希望するのであれば、本件の弁護人のような行動も許容されると考えるべきなのでしょうか。

これは雰囲気的に弁護人側としても何か言わないとまずいんじゃないでしょうか。

なんか手探りで綱引きしてるみたいですねえ。
裁判員制度で裁かれるのであれば、こういうリークも、印象操作という点で意味があると思うし、弁護人側もリークで対抗すればいいじゃん、とか思うのですが、この事件はそうじゃないですから、弁護人側はどう対応すればいいのか、難しいと思います。

an_accused さんのコメントを読んで思ったのですが、
裁判員制度を念頭に置くなら、ある程度の過剰取材も必要悪として利用していくことが要求されるんじゃないかと思います。
an_accused さんの指摘されるように、この事件の弁護人はこういう積極的利用は意図していなかったと思います。
しかし、結果としてそれに近い効果が生じ、今回の捜査側の「リーク」も、それに反応したんじゃないかな、と思わせるところがあるので、そういうことも視野に入れざるを得ないんじゃないか、と思うのですが。

しかし、何にせよ、この事件は裁判員制度じゃないですから、通常の公判を考えざるを得ないですよね。
難しいと思います。

>an_accused さん
 
 親族等に対する過剰取材を抑制するために弁護人が過剰に語るということであれば、相当問題だと思います。
 それでは弁護人はいったい誰の利益のために行動しているのかわからなくなります。
 被疑者の同意または意思に基づけばいいのではないかという意見があるかもしれませんが、素人の被疑者には、弁護士のマスコミに対する対応が自分にとってどのような影響を及ぼすのか理解することができません(プロにだって予測困難です)。

 弁護人の行動の評価は、まず被疑者・被告人の利益になるかどうか、少なくとも被疑者・被告人の利益のために行動しているかどうかが評価基準になると思いますが、本件ではどうなんでしょう?

>白片吟K氏 さん

 ほんとに弁護人の対応としては難しい事案だと思いますが、要はきちんとした方針ないし考えのもとに行動しているかどうかだと思います。
 どんな優秀な弁護人でも判断の誤りはあり得るわけですから、明確な考えのもとに行動しているなら、その考えの当否は批判の対象になり得ますが、結果の当否については、文字通り結果論かもしれません。

もちろん被疑者の親族に過剰な報道合戦があったのなら問題ですし、被疑者の弁護人がその行為に対し何らかの対抗処置を取るなり、場合によっては法的に厳しい対処を求めることも当然でしょうが、それをさせない交換条件として被疑者のこの段階での供述を記者会見で発表したというのはちょっと問題というか、おそらく事実としてもそうじゃないんじゃないかと思いますが。どうも報道を見てるとこの被疑者は逮捕前から盛んにマスコミに接触していて、本人が相当、世間やマスコミの眼を気にするタイプだったようで、まず大前提として被疑者本人がマスコミに自分の言い分を伝えることを弁護士に強く希望し、弁護士も警察や検察のリークで世間一般の眼が固定してしまうことを避けるために同意。マスコミに記者会見を打診すると当然彼らは飛びついてきたでしょうから、この機会にかねてから問題だと思ってた親族に対する取材の自粛を交換条件として要請。マスコミがこれを受け記者会見が実現した、ってあたりが実態じゃないかと想像しますが。たしかに警察・検察のリークとは別の情報が出てくると言う意味では、まったく意義のないものとは思いませんが、後々不利になる可能性があることをどこまでちゃんと被疑者に納得させたんだろうかって疑問は残りますね。

>モトケン先生
 明快なご解答をいただき、ありがとうございます。
 「刑事手続における被告人の利益擁護」という弁護人の本来的任務に忠実であるべきということであると理解いたしました。
 被疑者の親族に対する過剰取材については、親族自らが記者クラブないし各報道機関に応対するか、別の弁護士等を代理人として応対してもらうかする必要があるということですね。

>コメさま
 ご解説いただき、ありがとうございます。コメントを拝読して、コメさまのお見込みのとおりであると思い直しました。
 たしかに、第一回記者会見で弁護人が被疑者作成の「謝罪文」を読み上げていたところをみましても、被疑者は弁護人が記者会見を行なうことを「容認した」という以上に、積極的に情報を発信してもらいたいという希望を抱き、弁護人に要請していたと理解するのが妥当だと思います。

 さて、弁護人がそのような被疑者・被告人の要望に応えた結果、どのような不利益が生じるかということですが、例えば仙台筋弛緩剤事件では、被告人が弁護士や勾留裁判官に犯行を自白していたことが、否認に転じた後の公判で大変問題になりました。このように、身柄拘束前や拘束直後に、敵対しない立場の者(弁護人など)に対して犯行を自白していることが明るみになった場合、公判では相当不利になることが予想されます。
 翻って本件をみますと、たしかに供述が変遷しているとはいえ、全面否認から徐々に自白するという直線的な変遷であり、「後で言質をとられる」というような不利益はまだ生じていないように思われますので、弁護人による記者会見の内容が直ちに公判で不利に働くかといいますと、「現時点ではわからない」というのが正直なところではないかなあと思ったりしています。

 いずれにせよ、弁護人が捜査機関・裁判所以外を相手にアクションを起こすことについては慎重であるべきであるということが、改めて理解できました。モトケン先生、白片吟K氏さま、コメさま、ありがとうございました。

「 水量の少ない川で流されたのに、遺体に傷がない 」 などの不審点を 「 遺体内の水から川にいるプランクトンが検出されたことなど 」 で押し切っていた秋田県警。日刊ゲンダイの

県警は彩香ちゃんの事件を事故死としていたが、地元では「秋田県警の大失態」という怒りの声が上がっている。

という記述も物ともせず、わざわざ梅雨時で川の水が増えているこの時期に人形を使って実況見分を行うなどして、当初の見解を押し通すかに思えたが、一転、彩香ちゃんの不審死にも、畠山鈴香容疑者が絡むことになったようだ。
(以上 いいげるブログより引用 http://igelblog.blog15.fc2.com/blog-entry-387.html)

7月16日 日曜日 読売新聞35面 「突き落とし後、豪憲君宅へ」の見出しのすぐ下に「陸橋から娘落とし死なす」の見出しを配置している。
こういう事件が1年程前から増えているので、事件があったと警察が発表すれば、マスコミとしては記事にしない理由はないだろうが、
それを分かって警察は、複数起こっている一般人の知り得ない事件・事故の中から、若しくは、起こっていない「事件」の中から、発表されるべき「事件」として、この時期に何故これを選択したのか。

警察は、どういう事件にしたいのか、また、どういう事情で、其処が落としどころに決まったのか。
「捜査してくれと頼んでいる母親自身が犯人であるなどと思うはずがない」 という理由以外に、事件として捜査したくない、別の理由はなかったか。

この迷走は、畠山鈴香容疑者の供述の変遷なのか、警察の試行錯誤なのか。

 当初、彩香ちゃんの事件を事故として処理した秋田県警
 彩香ちゃんの事件について殺人である旨の供述を得た秋田県警

 どう転んでも批判は免れません。
 それも極めて厳しい非難を受けそうです。

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