エントリ

 「被疑者国選弁護制度スタート」のエントリに対して、紫色の顔の友達を助けたい さんから、ミランダルールについてどう思うかという質問がありました。
 「欧米やアジア諸国の現状などもふまえて」とのことですが、私は諸外国の実情については不勉強ですのでふまえた回答はできませんが、書ける範囲で書いてみます。

 ミランダルールについての簡単な説明としてウィキペディアを引用しておきます。
 ミランダ警告

 この判決が確定して以後、法執行官には、逮捕した被疑者に対し、以下の項目を一言一句間違える事無く読み上げ通告する義務が課される様になった(そのための携帯型カードもある)。これが為されていない場合での供述は、公判で証拠として用いる事が出来ない。

1. You have the right to remain silent.(あなたには黙秘権がある。)
2. Any statement that you make could be used against you in a court of law.(供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる事がある。)
3. You have the right to have an attorney present when being questioned.(あなたは弁護士の立会いを求める権利がある。)
4. You have the right to a court appointed attorney if a private attorney is not affordable.(もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、公選弁護人を付けてもらう権利がある。)

告知をした後、権利について理解出来たか否か、権利を放棄するか留保するかについて被疑者の回答を取る義務があり、更に申し述べたい事があるかについても確認をしなければならない。

 1.については、日本でも実施されています。
 2.については、公判の冒頭では裁判官が説明しています。
 捜査段階については、弁護人がついていれば弁護人がきちんと説明しているはずです。
 4.については最近一部の重罪について被疑者国選弁護制度が施行され、将来的には適用範囲が拡大される予定ですが、現状では不十分です。

 最大の問題は3.であり、その前提としての取調べにおける弁護人の立会権です。
 現在は日本では弁護人の立会権は認められていません。
 近い将来に認められる可能性は低いです。
 その代替措置的なものとして、取調べの可視化はごく一部で試行が考えられています。

 弁護人の取調べ立会権を認めれば、自白が得られない事件の数は確実に増えると思いますが、実は私は、アメリカなどで採用されている弁護人立会のもとでの取調べの実情を知りません。
 弁護人が取調べにどの程度介入できるのかもわかりません。
 弁護人が捜査官の質問を制止できるのか、被疑者が質問に答えるのを制止できるのか等について何も知らないのです。
 ですから、アメリカにおいて採用されている取調べにおける弁護人立会権をそのまま日本に持ち込んだ場合にどのようになるのかを的確に予測することが困難です。

 さらに言えば、弁護人立会権は、刑事司法制度全体の中において考えられるべきであって、それだけを取り上げて採否を論じるのはほとんどナンセンスと言ってもいいです。

 刑事司法制度全体というのはどういうことかと言いますと、例えば、刑事実体法(典型的には刑法ですが)の規定の仕方がどれだけ主観(つまり供述)に依存する形になっているのか、裁判における証拠調べ手続がどうなっているのか、証人の証言の信用性はどのようにして確保されているのか、有罪判決のための立証はどの程度必要なのか、司法取引との関係はどうなっているのかと言ったことが問題になります。

 そしてさらに根本的な問題として、国民は刑事司法に対して何を最も期待しているのか、または重視しているのかが問題になります。

 取調べに弁護人の立会を認めるということは、弁護人によって不当な取調べが抑止され冤罪事件の発生を防止できるという効果が期待できると同時に、弁護人によって真犯人から自供を得ることが困難になり処罰することができないという事態も生じうると思います。

 完璧な制度などあり得ないわけですから、相矛盾する価値や要請をどのように折り合いをつけて制度設計するのか、国民はどのようは価値観に基づく制度設計を支持するのか、という問題であろうと思っています。

| コメント(6) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

コメント(6)

コメント有難うございました。
「弁護人立会権は、刑事司法制度全体の中において考えられるべき」ということも漠然とではありますが、理解できました。刑事司法制度全体の中には、刑事訴訟法も当然含まれると思います。
私は、陪審員制度の導入にあたり、刑事司法制度全体を抜本的に見直すべきだと、素人ながら思いますが、それに関連して、このミランダルールの3.については充分な議論が必要だと思います。私のブログhttp://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/cat3889615/index.html 2006年7月21日「あかの他人の犯罪の証拠隠滅などありえない」にも書きましたが、私と共に逮捕された医師の調書を読むと、そのときどきの捜査官のいいなりになっているのがよく分かります。冤罪はもとより、罪を認めるとしても、検察官のいいなりの調書が作成され署名したために真実よりも重い罪を着せられた人も少なからずいるはずです。私や弁護士さんにいわせれば、「検察官は犯罪者を作るプロ」です。刑事裁判において検察調書の信頼性が高く、「凶器」になるのですから、調書作成段階から被告人には、法律のプロ(=弁護士)の直接的なアドバイスが必要だと私は考えます。
「疑わしきは被告人の利益に」の基本は日本の現状でも存在します。しかし、現制度上は、被告人には極めて不利な制度になっていると私は実感しました。ミランダルールを含めた被疑者、被告人の権利についての真剣な議論がもっと必要ではないでしょうか。
また、アメリカでは一審で無罪になると検察官には控訴の権利がなく無罪が確定します。
日本では、勿論控訴します。親方日の丸ですから、費用のことなど考えずによっぽどの事情がない限り、控訴してくるでしょう。(もちろん私もそうされました)
モトケンさんは、諸外国の制度についてはあまり実情をご存じないとのことですが、ミランダルールの4.が不充分であることや、この控訴する権利についての点からすると、少なくとも本邦では、「制度としての被告人の利益」はあまり考慮されていないと思いますが、いかがお考えでしょうか。

要点と特徴のみ(異論もあるかと思いますが、分かりやすいように大胆に書きます)。
1 フランスでは予審判事というのがいまして、被疑者勾留段階から弁護士が付くにしても、いきなり3か月勾留で、重大事犯なら1年くらい勾留されます。その後に起訴されて裁判になりますから被告人勾留が始まります。
この予審判事は、自分で令状を出して自分で取り調べ、いわばオールマイティのように私の眼には映ります。
現行犯の場合には、その場にいた参考人・証人も24時間は拘束できる法律になっています。
2 イギリスでも、アメリカでも、無令状逮捕が原則です。つまり、重大事反であれば警察が合理的な疑いがあると判断すれば現行犯でなくても無令状で逮捕できます。その代わり48時間以内に裁判官の前に連れて行くことになります。
アメリカにミランダルールはありますが、その権利を放棄させることが警察官の腕の見せどころです。そして、いったん自己の意思で放棄した以上、後から警察の圧力があった、騙されたなどという主張は原則通りません。自己責任という感覚ですかね。
囮捜査、通話傍受は捜査官の権限ででき、これが威力を発揮していますし、挙証責任の転換もあります(例えば、自分の知らないうちにバッグに薬物が入っていても、それだけで有罪になる可能性大)。
3 アジアは、植民地時代の宗主国の制度そのものです。ですから、シンガポール・マレーシア・インド・スリランカ・バングラデシュ・香港などは英国法です。しかし、市民が証人として出廷しないので、起訴されても延々期日が延期され、何年も被告人勾留が続くのが実態です。
フィリピンはアメリカの制度と似ていますが、実態は知りません。
4 中国・ベトナム・ラオスは社会主義法ですが、基本的にはフランスの大陸法系です。黙秘権がありません。警察が独自に身柄を拘束し(最大9日間くらいまで),その後検察院が令状を発付して2か月単位で逮捕(日本で言う被疑者勾留)します。罪の重さにより、1年ぐらい被疑者勾留が続きます。起訴されてそのまま捜査記録が裁判所にいき、それを読んだ上で裁判が行われ、法廷は実質1日で刑宣告まで行きます。
 弁護士は一応取調べに立ち会えますが、助言する権利はありません。要するに、捜査官の拷問防止の見張り役程度の役目でしょう。弁護士も官(共産党)には弱い。
5 インドネシアは、オランダの影響を受けています。警察が独自に令状を発付して身柄を拘束します。その後検察官に送致され、検察官が令状を発付して捜査し、起訴されると裁判所が令状を発付して裁判を始めます。それぞれ数か月単位の勾留だったと思います。
6 英米法以外の国では,検察官が上訴するのは当然視されています(フランスやドイツなど欧州全部を含めて)。これは、一事不再理と言って、一度無罪になると再審理できませんが、その手続がどこまでを意味するかが英米法とヨーロッパ大陸法で異なるからです。
 以上の点を踏まえて、日本の制度がどうなのか考えて見てください。そもそも国の実情に合わせて存在するわけで、それが全体的に考察すると意味です。それでも日本とは比較にならない実情だと思います。

オジヤマ虫さん詳細な御教示有難うございました。
テーマとしては、一冊の書籍になるような大きな演題だと思います。いずれにしても、現状の日本で、控訴されたのは事実ですので、法律の上で勝負するしかありませんので、頑張ります。

交番で警官ともめました。そのやり取りで警官の発言のいくつかに疑問がありました。しかし法律の専門家でない私は反論はできませんでしたが、「うそ」をいっている気がしました。私が「あなたの発言を文章にしてくれ」といったところ拒否されました。警察官は私の要求を拒否できるのでしょうか?正確に覚えてはいないのですが「あなたにはこれしか方法がない」といわれた気がします。

交番で警官ともめました。そのやり取りで警官の発言のいくつかに疑問がありました。しかし法律の専門家でない私は反論はできませんでしたが、「うそ」をいっている気がしました。私が「あなたの発言を文章にしてくれ」といったところ拒否されました。警察官は私の要求を拒否できるのでしょうか?正確に覚えてはいないのですが「あなたにはこれしか方法がない」といわれた気がします。

モトケン先生、3.の問題も制度上大きな問題だと思いますが、運用上の問題としては2.が確実に実行されているか否かが最も重要な点だと思います。すなわち、自己責任の弁論主義で裁判が行われる以上、2.が必ず必要ということです。コストはかからない(と同時に経済的利得もない)がこれがなされていなければコストをかけて裁判するに値しないバッタもんの証拠として破棄される、というように、弁論主義裁判のもとでは正義とは運用の正しさ前提でなければ究明できないものと思います。

Broken-window理論も根幹はそこにあると思っています。

法の素人ですが弁証法の常用者(科学する者はみな用いていると思います)としてこのように考えますが、諸氏におかれましてはよろしくご添削のほどお願い申し上げます。

法律相談へ

ブログタイムズ

このエントリのコメント