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痴漢判決:会社役員に無罪…「故意に疑い」 大阪地裁(毎日新聞 2006年11月30日 13時43分)


 報道だけで無罪判決の当否についてコメントすることはできないのですが、この報道は、元々の判決が悪いのか記者が無理解なのかよくわかりませんが、かなり誤解を生じさせるおそれを感じます。
 (追記参照 記者が無理解だったみたいです。)

 横田裁判長は「被告の手が女性の胸に2〜3秒以上触れたことは認められる」と認定。そのうえで、「被害女性は座席で寝ていた。接触行為はわしづかみではない上、ほかの乗客も気づかなかった程度だった」などと故意性を否定した。

 故意犯が成立するためには、「行為」という客観面と「故意」つまり「行為の認識」という主観面の両者が必要です。

 犯罪を成立させるにたる客観的な行為が存在しなければそもそも故意は問題にならず、犯罪不成立です。

 「被告の手が女性の胸に2〜3秒以上触れたことは認められる」と認定したということは、客観的な行為の存在、つまり被告人の行為は客観的には痴漢行為に当たると認定したということだと解されます。

 しかし

 そのうえで、「被害女性は座席で寝ていた。接触行為はわしづかみではない上、ほかの乗客も気づかなかった程度だった」などと故意性を否定した。

 と報道されているわけですが、

 「被害女性は座席で寝ていた」か起きていたかは、故意の成立を全く左右しません。

 「接触行為はわしづかみではない」としても、接触行為が条例違反の客観的な行為と言えるのであれば、つまり「胸に2〜3秒以上触れたこと」が条例違反行為と言えるのであれば、「わしづかみではない」ことは故意を否定する理由になりません。

 また「ほかの乗客も気づかなかった程度」だったと指摘しているようですが、ほかの乗客が気付くか気付かないかは、客観的な行為評価の面においても主観的な故意の有無の認定においても、なんら決定的な事情にはなり得ないと思います。

 結局、この報道によれば、寝ている女性が起きない程度に胸を2〜3秒お触りする程度の行為は痴漢行為にならない、と言っているように読めます。

 しかし、そうであれば、それは痴漢行為と言えるかどうかという客観的な行為評価の問題であって、故意の問題ではありません。

 被告人が寝ぼけていて無意識で女性の胸に手を置いてしまったとか、席を立とうとしてバランスを崩してしまって思わず手が女性の胸に触れてしまった、というのであればまさしく故意の問題だと思いますが。

 要は、被告人が意図的に女性の胸を2〜3秒触ったかどうかだと思うのですが、その点をはっきりさせずにわしづかみだったかどうかとか他の客が気づいていなかったなどという点を強調すると、わしづかみにしなければいいと考える不心得者が続出したり、周りの乗客の目撃者のいない事件は当然に起訴できないまたは無罪になる、という噂が広がってしまいそうです。

 たぶん判決では、「以上の事実を総合すると被告人が意図的に被害者の胸を触ったと認めることには疑いが残る」というようなことを言ってるんじゃないかなと思うんですが、報道ではそのあたりが全く不明確です。

追記
 カクテルさんから、asahi.comの記事の紹介がありました。

 「新幹線で痴漢」の被告に無罪 大阪地裁(asahi.com 2006年11月30日12時26分)

 横田裁判長は「胸を触られたという被害者の供述は信用できる」と指摘したうえで、「男性は飲酒後に席につき、女性のほうを向いて体を横に倒して眠っており、その際、左手が女性の胸に触れたとしても不合理とはいえない」と判断した。

 こういうことであれば事実認定の問題であり、私がいちゃもんをつけることもない記事です。

 しかし、新聞社によって、重要な事実についてこれほど正反対の報道がなされるのも珍しいというか、毎日の記者さん、もっとしっかりしてくださいと言うべきか。。。

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コメント(13)

 モトケン先生
初めまして,いつも楽しく拝見させていただいています。
 こちらの方が正確なのではないでしょうか。寝ていたのは,女性ではなく被告のようです。理解力のない記者さんは困りますね。
http://www.asahi.com/national/update/1130/OSK200611300027.html

全く、記者なのにきちんとした記事が書けないなんて。
困ったもんです。^−^;
裁判官がおかしな判断をしたのは、痴漢かどうかのボーダーラインが
はっきりしているのかどうか疑問をもちます。
基本的に、女性は好意を持つ人に触られる以外、嫌だと思っていると思います。
(中には、恋人以外は絶対嫌だという人もいるでしょう。)
ですから、被害者側のとらえ方にもよると思います。
私は触られることは少なかったですが、無理やり見せてくるおっちゃんが
多かったです。

司法担当記者がこのレベルではマズイですね。

しかも署名記事だし。

毎日はこのレベルの記者を使ってて恥ずかしくないのでしょうか。

PINGU さん
 朝日新聞の記事を読めば,裁判官は,「被告人が寝ていて偶然に触れてしまった。だから故意がない。」という判断のようです。それ自体は,おかしな判断とは言えないでしょう。
客観的には,条例に反する行為をしたという認定はしていると思いますよ。

>カクテルさん

 朝日の記事の紹介ありがとうございます。
 本文に追記コメントいたしました。

カクテルさまのおっしゃることは判りました。
「でも、私自身は故意でなくても、知らないおっちゃんの体が接触してくるのは嫌ですね。」

PINGU さん

被告の男性の行為が,マナー違反であることは間違いないですよね。出張の機会のある私を含めた男性諸氏は自戒しなければならないことだと思います。

まぁ男女問わず興味ない人(しかも酔っ払い)に絡まれるのは嫌ですね。
でもまぁ痴漢として逮捕までいくのはよっぽど腹に据えかねたんでしょうか・・・

女性のほうを向いて体を横に倒して眠っており

普通横向いて寝ますかね?しかも人がいる側向いて。

>普通横向いて寝ますかね?しかも人がいる側向いて。

終電のベンチシートで横になって寝てる酔っ払いはよく見かけますね。
新幹線のシートでどういう形で寝てたのかはよくわかりませんが。

瓜田に沓を納れず李下に冠を正さず。

57歳男性の真意(劣情の有無)は「藪の中」。

裁判所の判断は、ある意味かなり困難を伴ったのではないでしょうか。

男性が飲酒していなければ、どのように判断されたのか興味あるところです。

>男性が飲酒していなければ、どのように判断されたのか興味あるところです。

飲酒の件は、私が終電の喩え話で使っただけで記事の中では触れられていません。
「のぞみ」車内の出来事ですから、実際触った状況を見た目撃者もいなそうだし判断は難しそうですね。

 この無罪の方の弁護人からお話を聞きました。
「右手で、かばんをもって下にさげて、左手でつり革につかまっていた人が痴漢になるはずはない。」
ということです。
 社会部記者の伝えるブラックボックスを通した報道を分析して議論することは非常に馬鹿馬鹿しいですね。
 ちなみに弁護人は喜田村陽一先生です。
 ヤメ検の元検さんのブログですから、「検察官の強引な起訴」についてしっかりお話を聞いてみたいです。

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