エントリ

 県警によると、目撃証言をもとに作成した似顔絵などから、この男性が浮上。被害者に写真を見せ、遠目に男性を確認させたところ「似ている」と証言したため、任意で事情を聴いた。男性は任意の取り調べに当初は容疑を否認したが、3日目に容疑を認めたため、客観的な証拠がないまま逮捕した。男性は公判中も一貫して罪を認めていたという。
県警によると、2件の事件現場にあった靴跡は、男性の靴のサイズより大きかったという。
小林勉・県警刑事部長は「足跡については当時は疑問に思わなかった。男性の逮捕は客観的証拠が得られておらず、裏付け捜査が不十分だった。重く受け止め再発防止に努めたい」と話した。
佐野仁志・富山地検次席検事は「様々な証拠を総合的に判断して起訴したが、振り返ってみると、男性を犯人と特定する客観的な証拠はなかった。基本に忠実な捜査を怠り、客観的な証拠に対する問題意識が足りなかった」と話した。

21日の朝日の報道
逮捕時「証拠ある」 富山の無実男性の兄に県警キャッシュ

兄の話では、男性は任意の調べを受けていたころ、家族に泣きながら「やっていない」と言っていた。兄は県警に「帰してくれ」と求めたが、「証拠があるから」と拒否されたという。兄は「いまになって客観的な証拠がないとはどういうことか」と批判した。
県警は19日、男性宅からの電話の発信時刻と犯行時刻が近く犯行が物理的に不可能だとわかったことなどから、男性を無実と判断したと説明した。だが、実際には取り調べ中にアリバイが成立する可能性に気付きながらも「偽装だろう」と思い込み、裏付け捜査をしなかったという。
また県警が男性宅を家宅捜索した際、現場で見つかった靴跡と同じサイズの靴を見つけられなかったのに、「捨てたに違いない」と疑問を持たなかったこともわかった。

先に引用した読売の記事
婦女暴行未遂で服役男性は無実、公判中の男逮捕…富山キャッシュ

県警によると、氷見署は3月の事件で、少女の証言に基づいて似顔絵を作成し、聞き込み捜査をした結果、特徴がよく似ているとして男性が浮上。少女に男性の写真を見せたほか、遠目に男性の顔を確認させたところ、少女が「よく似ている」と証言したため、任意で男性を事情聴取した。

 結局、積極証拠というのは、被害者の少女の供述に基づく似顔絵と人定確認だけだったのですね。

 人定確認、つまり被疑者が犯人であるかどうかを被害者や目撃者の記憶に基づいて確認するというのはとても慎重さを要する捜査なのです。

 もし被害者に最初に被疑者の写真を見せたときに、被疑者の写真だけを見せたとすれば、被害者の答は「似ている」か「似ていない」かしかありません。「分からない」という答もありえますが、それは「似ているとは言えない」という意味で「似ていない」に分類されます。
 つまり何が言いたいかといいますと、1枚だけの写真を見せるのは「典型的な誘導尋問」だと言うことです。

 その際に、「君の話に基づいて作った似顔絵に似ていないか?」などと聞いたとすれば、被害者は決定的に誘導されてしまう危険が生じます。
 
 ですから、被害者などに写真を示すときには何枚かの写真の中に被疑者の写真を混ぜて示し、「この中に犯人がいますか?」というような聞き方をするのです。
 そして、ただ単に似てるかどうか聞くのではなく、どこが(例えば目元とか口の形とか)どのように似ているのかを確認する必要があります。

 報道ではこのあたりのことがよくわかりませんが、足跡捜査などに表れている超自白偏重捜査姿勢に照らせば、まともな人定捜査をしているとは思えないです。
 これは県警の捜査のあり方の問題であって、被害者を責めるべき問題ではありません。

 無実の男性は、そのようなあいまいな人定供述に基づいて自白させられてしまったのですね。
 
 それにつけても、靴のサイズの違いを警察や検事はどのように考えたのでしょうか。
 現場の足跡は無実の男性の足のサイズより大きかったとのことです。
 常識的に考えてこれは極めて不自然なことです。
 小さいサイズなら履けないが、大きいサイズなら履けると考えたのでしょうか。
 しかし、大きいサイズの靴を履いて歩くのはとても歩きにくいことです。少なくとも明らかな違和感があります。
 見つかって逃げるときにも不利です。

 ですから、大きいサイズの靴を履いていたとすれば、その点に関する具体的かつ合理的な供述がなければなりません。

 アリバイの成立する可能性についても同様です。
 アリバイの成立する可能性があるならば、徹底的にその可能性を潰す必要があります。
 もし可能性を否定できなければ、疑わしきは被疑者被告人の利益にの原則に従い、被疑者を犯人と見ることはできません。

 これらの点について、被疑者はどのような供述をしていたのでしょうか。
 いずれにしても、虚偽供述であったことは明らかです。
 虚偽供述に真犯人の供述のような迫真性があろうはずがありません。

 そういう視点で見ますと、私は、この事件は当時の主任検事と次席検事の責任が最も重いと考えます。
 警察送致事件における検察の職責に関する自覚が全くなかったというべきです。

 それに比べて富山県警には一抹の救いがあります。
 それは、真犯人を捕まえたのも富山県警だったということです。
 身内のしかも先輩の恥をさらすことになるのに、もみ消すことなくきちんと真犯人を検挙したという点は評価したいと思います。

さっそく訂正追記(^^;
 真犯人の供述を得たのは鳥取県警のようです。

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コメント(16)

この捜査・起訴、呆れてものが言えません。

いつも興味深く拝見しております。

この事件、真犯人を別の事件で鳥取県警が逮捕し、取調中に、富山の事件を供述したようです。従って、真犯人を逮捕したのは、富山県警ではないようです(下記、富山版に詳細な内容が紹介されています)。

http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000701200003

他の県警から提供された情報なので、さすがにもみ消すのは無理と判断したのでしょうか。正直、賞味期限切れ事件よりも「重要」だと思いますが、思いの外、マスコミが騒ぎませんね。

>No.2 成田の近くの住人さん

 あ、やっぱりそうでしたか。
 その可能性を考えていたのですが、全国版には載せないのですね。

 情報提供ありがとうございます。

>結局、積極証拠というのは、被害者の少女の供述に基づく似顔絵と人定確認だけだったのですね。
 
被害者の証言(100%の確証のない)によって、思い込んで、白を黒にされたのでは、たまりませんね。
想像でしかないですが、服役した男性は、信じてもらえない。不信感と無力感からやってもいない犯罪を認めさせられ、懲役刑を受けるしかなかったのかと思うと愕然としますね。

21世紀になって科学捜査等、捜査技術も発達しているのに、不確かな証言でいとも簡単に冤罪にされる事実。モトケン先生の分かりやすい解説を借りて言えば、こんな稚拙なミスが素通りする恐怖を感じました。また、真犯人が再犯せず捕まっていなければ、冤罪のまま、葬り去られていたのかと思うと、なんとも恐ろしい事件としか言いようがないですねぇ。関係各位に当然教訓として、再発防止に努めていただきたいです。

モトケン先生お久し振りです。
この件については、同業者から見ても、富山県警と富山地検の捜査?立件は、杜撰でお粗末としか言えないと思います。
捜査の基本の一つに「被害者、目撃者は勘違いする」というものがあります。
人間は機械ではありませんから、実際に見たり聞いたりした事柄についても、思い込み等による修正がかかってしまうことが往々にしてあります。
極端な例では、逃走した「赤色のバン」が、実は「黒色のセダン」だったということもあります。
ですから、本件のように、現行犯ではない事案で被害者の直面を行う時は、先入観を排除する為に背格好の似た人物(大体は警察官)を準備し、被害者に対し「この中に犯人がいるとは限らない」と説明したうえで実施し、写真面割でも、最低10枚の写真を準備してから実施するのが常識です。
またたとえ面割の結果、被害者が「絶対間違いない」と言ったとしても、アリバイ捜査等のいわゆる「シロくする捜査」はしなければいけません。
本件の場合、上記のような所定の捜査(はっきり言って必要最低限の捜査)を実施していれば、少なくともこの男性が無実であることはすぐわかるはずです。
本件における富山県警の杜撰さは非難されてしかるべきですし、モトケン先生のおっしゃるとおり穴だらけの捜査による送検を放置し、そのまま起訴した富山地検の落ち度も度を越えています。
はっきり言って、こんないい加減な常識外れの捜査をされては、適正捜査を心掛けている大多数の警察官にとって、迷惑以外のなにものでもありません。

この事件で思うのが、皆様のコメント以外に、弁護のことです。

弁護士は、冤罪をなくす上で、最も大きな働きをしなければならないと考えます。弁護をした山口敏彦弁護士は「私も含め、もう少し事実関係を精査すべきだったと複雑な気持ちだ。当時、疑問に思うことはなかった」と話したとのことでありますが、本事件では、懲役3年の判決であったのであり、懲役3年はやはり相当大変なことであったと思います。例えば、執行猶予に持ち込める確信があり、本人が犯行を認めている場合には、寛大な・・・・をとの弁護をすることになってしまうことが多いと思いますが。

 弁護の問題は、弁護人にどの程度の証拠が開示されていたか、被告人の弁護人に対する具体的な供述内容や態度はどうであったか、が明らかでないとコメントしずらい面があります。

No.6のコメントの書き始め部分で19日のエントリーを無視して書いてしまいました。

No.2 成田の近くの住人さんのコメントにあった朝日の地方版のニュースを読み、さらにはモトケンさんのエントリー本文に書いておられるような、様々な点を本当は、弁護士も気付くべきであるのにと感じたものですから。

>当時の主任検事と次席検事の責任が最も重いと考えます。
一応、個々が独立して動けるとされている検察でも、
やはり上司たる次席検事の責任は重くなるのですね。
約1年前からの大きな事件で、取り調べを担当したとして、
お名前があがった方が当時の次席検事のようですが、
何らかのペナルティが下るのでしょうか?
あちらの事件にも影響がでてくるのでしょうか?

責任があるのは、実は裁判官もあると思います。

このエントリーでモントケンさんが指摘されたことについて、誰も気が付かなかったのか、疑問視しなかったのかと言う点があります。自白と目撃者の証言としか有力な証拠がなかった裁判ではなかったのかと言いたいのです。

警察官、検事、弁護士、裁判官、それぞれに対し将来に向けて肝に銘じておかねばならないことを教えていると感じます。

人間はミスをする動物です。責任追及を行う必要はないが、再発防止への努力は必要だと思いました。

www.kitanippon.co.jp/contents/knpnews/20070123/2629.html
地元の新聞の続報です。
検事・裁判官に一応無実と訴えたようですね。

県警は被害者をまだ見つけることができないのでしょうか?

>elfin さん

 情報提供ありがとうございます。
 別エントリでちょこっと論評させていただきました。

ちなみに、一時、足のサイズが26.5センチなのに、28センチの靴をはき続けていました。十年間ほど。

>しまさん

 そのこころは?

 捜査〜判決も、航空機事故も、医療事故も、本当は再発防止が最優先だと思いますが、日本では「犯人は誰だ!」「責任者をしょっぴけ!」という岡っ引き根性の国民性が強いのではないかとときどき思います。良し悪しはおいておいても。
 これは、時代劇の勧善懲悪ものや現代劇のミステリーものが影響しているのか?というのは考え過ぎでしょうけど。

>モトケンさん
足が横に長いらしく、ゆったりと靴をはくためにはサイズが大きい方が良かったと言うことと、そもそも自分の足のサイズを測らずに靴を買っていたと言うことが問題でした。

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