気管切開で患者死亡(asahi.com 2009年01月10日)
病院側によると、女性患者は昨年7月13日、脳幹梗塞(こう・そく)によって意識がなく呼吸も停止した状態で緊急入院し、人工呼吸器をつけられた。同月25日、呼吸管理をスムーズにするため、執刀医と指導医ら複数のスタッフが立ち会い、気管切開手術を行ったところ、手術中に低酸素血症のため心停止状態に。蘇生を施した結果、心拍は戻ったが、間もなく死亡したという。
報道された範囲での事実経過は以上のようなものです。
なお、患者の年齢は83歳とのことです。
病院側は死因が分からない異状死として藤岡署に届けていたことがわかった。
こういう場合は以前なら何らかの死因を認めていたと思うのですが、どうなんでしょう?
ともかく誰が見ても明白な死因がない場合は届けたほうがいい、と病院側は考えているように思えますが、このような場合にも原則異状死として届けるということになりますと、年間何件くらいの異状死の届がなされることになりそうなんでしょうか?
仮に10年前と比較すれば相当増えることになるんじゃないかと憶測してます(つまり根拠未確認)が、そのへんはどうなんでしょう?
以前は、死亡診断書の死因に「心不全」という記載をよく見ましたが、「心不全は『結果』であって死の『原因』ではない。」という話を聞いたことがあります。
つまり、「心不全」という死因の記載は、明確な死因は分からないがともかく心臓が止まったので心不全ということにしておこう、という意味だと理解しました。
そうすると、以前に心不全とされた症例のほとんどは異状死として届けられることになるのではないかな、と想像してしまいます。
そうなると、届けの増加に伴って当然警察の事務量も増えることになります。
警察の事務増加量が一定の限界を超えると、警察庁と厚労省との間で届け出の抑制のための協議が必要になったり安全調の議論に影響することになるはずです。
当然、警察側からの要望により協議が始まることになります。
つまり、警察庁側からの要望により否応なしに何らかのガイドラインを決めなければならない状況になるわけで、その内容は必然的に警察が了承した内容になりますから、そのガイドラインに従っている限り警察から届け出義務違反を問われる恐れはほとんどなくなることになりそうです。
その意味で、中長期的戦略として全国の医療機関で片っ端から異状死届を出すというのはありかも知れません。
病院側の事務量も増えると思いますが、遺族に対する説明の代わりと考えれば結局必要なことだと思われます。
警察が捜査の結果、過失なしと判断すれば、警察が病院に代わって遺族に過失が認められない理由説明してくれるでしょうから、結局早く揉め事が解決するかも知れません。
遺族から見れば、病院より警察のほうが公正に見える場合が多いでしょうから。
同署は医療ミスがあったのかどうか調べている。
「調べる」といっても、治療の経過をカルテや担当医師の説明等によって確認して、他の病院の医師の意見を聞くことしかないはずです。
つまり、医療の土俵での話になります。
法律論は医療的に怪しいとなった後での話です。
鈴木院長は「ご遺族には大変申し訳なく思い、謝罪と経過説明をさせていただいている」とのコメントを出した。
責任があろうがなかろうが、とりあえず謝罪するというのは日本的対応として必ずしも間違ってはいないように思います。
謝罪の仕方というのは研究の余地があるとおもいますが。
但し、(一部の医師のように)警察・検察は依然として現在及び将来においても暴走する、と考える場合は別の結論になると思いますが、私のこのエントリは、大野病院事件判決後の警察庁長官の談話などを踏まえて警察は医療過誤立件について慎重姿勢に舵を切っているという認識を前提にしています。
公立藤岡総合病院も同様の認識のもとにかなり自信を持って届け出たのではなかろうかと勝手に想像しています。
ちなみに死亡診断書の死亡原因が心不全でも「その原因となった疾患」を書く欄がありますのでそこに原因が書いてあるのがほとんどだと思われます。原因となった疾患が空欄の死亡診断書を私は見たことが無い(書いたことがない)のでどれくらいの件数になるのかはちょっと解りません。
ついでにいうと法律的に24時間以内に病院にかかっていない場合は警察に届けなければなりません。それが以前は警察も「原因が明らかなら届けないでもいいですよ」的な対応をしていたのですが、ここ数年は「原因がわかっていても届けるようにしてください」と変わってきました。そういう意味では警察に届ける件数は確実に増えていると思います。
また、確かに「ミスがあったかどうか」を調べる能力は警察には無いのは今までの事件を見ても明らかですから、実際に調べるのは当事者も関わる医療事故調査機関でしょうね。いくら第三者がやると言っても当事者なしに事故を調べるのは物理的に不可能ですから。
実際こんなケースを届けられても受け取るほうが迷惑なだけじゃないかと思うんですがいかがでしょう?
自分は死因不詳として死体検案書を作成したことが数回あります。死亡診断書ではありません。
結果として、少なくとも一度は司法解剖となりました。
現在、厚労省の主唱する医療安全調査委員会法案の警察届出基準の作成が行われていますが、いわば厚労省が勝手に書いているモノに過ぎません。大綱案を読むと、結局は診療中の死亡例は全て警察に届出るしかないのではないかという気になっても不思議はありません。
在京の有名病院等では、正式に異状死体としての届出はしなくとも、医療事故の疑いがある場合や、その疑いはなくとも遺族が騒ぎ出した場合は、警察の担当者に必ず連絡することとしているところが少なくありません。
今後、警察への届出は急増するであろうと思います。現在の大綱案がそのまま法となった場合、その傾向は更に強まるであろうと思います。
おそらくですが、この例は『死因のわからない異常死』ではなく、異常死ガイドラインでいうところの『診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの』として届けれられたのだと思います。
私も良くわからない例は、積極的に届けています。
この前はこんな例を届け出ました。
80歳過ぎの寝たきりご老人が、重症肺炎の治療のために他院から当院に搬送されてきたんですが、抗生剤治療でもなかなか良くならないんで、いちど胸部のCTを撮って肺炎の画像評価をしようとしたんです。CT室に行って「さぁ、これから撮ろう」と準備をしていたら心停止になってしまって、その場では、蘇生して慌ててICUに戻ったんですが、翌日再び心停止になって、今度は蘇生しきれずに死亡した事例でした。
警察に届けてましたが、肺炎による低酸素血症の急性増悪によるものか、肺の血栓塞栓によるものか、いろいろ診断に迷うところではありました。
死亡診断書は「呼吸不全」「肺炎」で、かきました。警察は、型通りの検案の後「犯罪性がない」として、お帰りになられました。
こんなのは従来は警察に届けることなどはなかったのですが、例の大野病院事件以降は、私は届け出るようにしています。
警察にはお手数をおかけすることが増えると思いますが、届け出ることによって「医療事故かくし」などと後ろ指を指されることななくなるのであれば、今後とも積極的に届けるつもりですし、同僚にも勧めています。
「警察のご苦労」といえば、最近はヘリコプターなどで遠方から搬送される方の検案事例が増えていて、これまた警察の負担になりそうです。
検案は、亡くなった方の住民票のあるところの警察が担当されるようですが、ヘリで100km以上の遠方(田舎)から搬送された患者の場合には、死亡後の検案のために田舎(失礼)の警察の方が地上の道路を片道数時間かけていらっしゃるわけで、往復で半日の仕事になるようです。
(ア) 直接死因[ 不 明 ]発病から死亡までの期間[死亡日(7/25)]
(イ) (ア)の原因[脳幹梗塞]発病から死亡までの期間[12日前(7/13)]
(ウ) (イ)の原因[ ]発病から死亡までの期間[ ]
(エ) (ウ)の原因[ ]発病から死亡までの期間[ ]
実は2行目以下の (ア)の原因 (イ)の原因 (ウ)の原因 などの欄は、社会保険(遺族厚生年金・遺族基礎年金)の給付や、労災保険の遺族給付(遺族補償年金・葬祭料)の給付認定の時に、添付する死亡診断書の写し(死亡届の右半分)では時に右側の死亡までの期間は必ずチェックされます。
というのは、(ア)の直接の死因の発生日が厚生年金の被保険者でなくても、(イ)(ウ)(エ)の原因が発生した日の一番古い日において厚生年金の被保険者であれば、この死亡により遺族厚生年金の受給権が発生します。逆に(ア)の直接の死因の発生日が厚生年金の被保険者であっても、(イ)(ウ)(エ)の原因が発生した日の一番古い日が厚生年金の被保険者でなければ、遺族厚生年金は貰えません。
これは労災の遺族給付でも同じで、死亡日ではなく死亡の原因となった傷病の発生が支給要件になる為です。上記の記入例では、(イ) (ア)の原因[脳幹梗塞]が勤務中の過労による発症であれば、死亡発生の7/25が退職後であっても受給権が発生するからです。
(以上は本件での83歳の女性患者とは別個の、社会保険の一般論です)
社会保険労務士として過去何度か、2行目以下の(ア)の原因、(イ)の原因、などの欄がきちんと書かれていない死亡診断書に出くわし、遺族より依頼を受けた遺族年金の給付申請に往生したことがあります。
医師の皆さん、日頃大変お忙しいとは思いますが、死因とその原因となった傷病については端折らず丁寧に書いて頂きたく存じます。
トピズレ失礼しました。
ごめんなさいです。保険金のことまで考慮して死亡診断書を書いたことは無いです・・・。
ただ、医学的に考えられる限りの詳細は記載するように努めているつもりです。
>警察の方が地上の道路を片道数時間かけていらっしゃるわけで、往復で半日の仕事になるようです。
司法解剖だと道東では往復で丸一日仕事になります(地元に解剖医がいないため)。
冬季は道北でも司法解剖の往復で丸一日仕事になることもあります(冬季氷結路面では速度がだせないため)。
気管内挿管した状態で気管切開手術をしていて、低酸素症って一体どういう状況なのでしょう。切開して、抜管後に新しいチューブを入れるのに時間がかかったのでしょうか。それとも、入れ替える数十秒間の無呼吸状態にも耐えられず心停止したのでしょうか。
程度問題ですがこれは事故ではなく病死だろうと思います。
> No.7 法務業の末席 様
横入り失礼致します。m(__)m
仰るように厚年法第58条第1項第2号に該当するか否かが、当該遺族給付の支給・不支給の決定の要であるような事例については、ご指摘の点は行政の窓口に於いても『感触として支給決定を出せそうだけれども明示的な証拠がない』というような感じで、事務担当者が現実と法令との間で困り果ててしまう「判断の要」となる部分ですね。
> 逆に(ア)の直接の死因の発生日が厚生年金の被保険者であっても、
厚年法による遺族給付は(常に初診日が問題となる障害給付と異なり)、死亡した日において現に被保険者である場合(要するに在職中の死亡である場合)には、死亡日前日段階での納付要件がクリア出来れば、死亡日のみが問題になるのでは?
違いましたっけ、なんかあやふやなまま書いてますけど。。。ポリポリ;アセアセ;;;
冒頭に記した条文規定の要件である「資格喪失後、被保険者期間中に初診日があり、5年経過前に死亡した場合」を判断する場合には、複数の症状を一連のものとして解する事が合理的である場合に、もっとも古い初診日が何時であったかが「要」なのは間違いないのですが。
脱線ネタご容赦下さい。>閲覧者各位
> No.11 thx-1138 への補足投稿
当該の私の投稿中、第2段落末尾にある「あやふやなまま書いてます」は、「投稿している私自身(thx-1138)も記憶が曖昧なまま当該の投稿を書いておりますが」という意味ですので、念のため追記させてください。
>No.11 thx-1138 さま
>> 逆に(ア)の直接の死因の発生日が厚生年金の被保険者であっても、
ご指摘の通りデス。
どっかに私の入れる穴はありませんか?
アー恥ずかしい(^^;
まあ、一つだけ言い訳を。
この死亡日に被保険者云々の部分を書きながら、頭の中では次の労災の事例を組み立てていたので、以下の事例との混乱がありました。
死亡日において労災の被保険者であっても、その死亡の原因となった傷病の発生が労災保険の適用とならない期間にあった場合、業務上及び通勤上の事由にかかわらず労災の死亡給付は行われない。
上記例示が正しければ○、誤りであれば×を付けよ。
(社労士試験問題集の初級編問題集にありそう・・・)
> No.13 法務業の末席 様
恥ずかしながら私は、厚年法による障害給付と遺族給付の要件を混同した事がありました。
更には所謂旧法下での障害給付の基準日の認定方法について、厚年法(発症日)と国年法(初診日)の違いがあったことを、全く知らなかったとか。。。
両者とも実害は生じませんでしたが。。。(滝汗
労働法はダメダメ且つそんな初歩的な記憶違いをした事のある私は、流れからして制度間の混同かなぁ位に思っておりました。m(__)m
後段のご設問の私の回答案と致しましては、これまた話の流れから類推するに、「給付が行われない」が正解かと理解いたしました。(^^;;;;
思い切り脱線してそうなので、この辺りで失礼致します。m(__)m
「以前に心不全とされた症例」の数について。
医療従事者の間ではおおむね周知のことかと思いますが、平成7年の死因分類変更(ICD-9→ICD-10)に先立ち、国は「死亡原因記入欄に疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください」といった趣旨の通知を出しています。死亡診断書/死体検案書の様式にも、その旨記されるようになりました。
結果、平成7年には、心疾患のうち「肺循環疾患及びその他の型の心疾患」の死亡率が不連続的に減少、おおむねこれに相当する分だけ「虚血性心疾患」「脳梗塞」等の死亡率が増大しています。平成6年~7年の間に死体検案技術やシステムに何らかのドラスティックな変革がもたらされたという事実はありませんから、この変化はそっくり、前述の通知等の影響としてよいと思われます。すなわち、「死因は不詳だが外因死とは考えにくい」といった事例について「心不全」という死因名をそれまで付けてきたところ、それを禁じられたため、「ならば『急性心筋梗塞(又は脳梗塞等)の疑い』にするか…」といったぐあいに検案医が対応したケースが相当数混じっていると考えられます。
# なお、このことは、検案医のいい加減さを物語るものではなく、
# 死体にせいぜい針の穴数個を開けるぐらいしか“損壊”が許されない
# 検案という行為では、死因診断に必要なだけの十分な情報量が
# 必ずしも得られないという物理的限界によるものと考えています。
で、この「肺循環疾患及びその他の型の心疾患」の死亡率減少分ですが、粗死亡率にしておおむね人口10万対50、人口を1.2億とすると実に約6万人分。これを仮に単一の主死因とすると、死因順位で「不慮の事故」を抜き、第5位に相当します。
ただし、平成7年の通知発出以前から明確な根拠なしに「急性心筋梗塞の疑い」などと死因名を付けていた/付けている例もあるでしょうし、さほど多くはありませんが通知発出以降も「心不全」と書いてくる例もあります。その一方で、yさんのおっしゃるように(イ)以下が記されている例(No.1)で、従来は(イ)以下が無視されて「心不全」として集計されていたものが、平成7年以降は正しく分類されるようになった(検案医が(イ)以下を直接死因に“格上げ”するようになった、ICD-10への移行に伴う原死因選択ルールの明確化により(イ)以下が原死因に選択されるようになったなど)例も混じっているのでしょうから、この数字はあくまで目安程度にしかならないかもしれません。
また、これら事例には既に警察が関与しているものが一定数含まれているでしょうから、これらが全例届けられたとしても、そっくり“純増”にはならないかと。