エントリ

 がんの手術後に植物状態となったのは、術後の処置に問題があったとして、昨年二月に豊岡市内の男性=当時(71)、今年三月に死亡=と家族三人が公立豊岡病院組合を相手に約一億六千万円の損害賠償を求めた訴訟は、病院組合側が約四千万円を支払うことで、五日までに神戸地裁で和解が成立した。

 原告側によると、男性は二〇〇三年一月に同病院を受診。口腔(こうくう)がんと診断され、手術を受けた。しかし、術後に縫合部分から出血、唇や舌に腫れが生じて気道閉(へい)塞(そく)となり、低酸素脳症で植物状態となった。

 原告側は「病院側は表面的な止血処置だけで、腫れの原因である内部の出血に対して根本的な処置を行わず、気道が確保できなかった」などと主張していた。

 病院組合は「医療機関として適切な対応ができなかったことを申し訳なく思う。同様の事故を起こさないよう取り組んでいく」としている。

 例によって情報不足の報道ですが、紹介します。

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コメント(13)

はじめまして。
怖い事件ですね。
大きな口腔癌の手術の場合、気管切開が置かれていることが多いですが、この場合はそうじゃなかったのですね。
術後出血が夕方以降に起こったのなら、当直医にとって地獄です。

不可逆的な脳障害が起こらない前(数分)のうちに、迅速に判断し、看護師を動かし、物を揃えて、場合によっては一度は気管内挿管を試み、無理であれば、気管切開。というか、輪状甲状軟骨間膜切開術。
止血は後回し。まずは気道確保。
しかし、口から血を吹き窒息しかってもがき苦しんでいる患者を目の前にし、冷静に、これができる医者は非常に少ない。
気道確保のプロである、麻酔科医、集中治療医、救急医でも、顔が真っ青になる事態です(腕の見せ所でもありますが)。

というわけで、この処置ができたら拍手喝さい。できないことを責められない。では、術後出血させたのが悪いのか。気管切開をおいてなかったのが悪いのか。こうなる可能性があることを予めムンテラしていなかったことが悪いのか。

>大きな口腔癌の手術の場合、気管切開が置かれていることが多いですが、この場合はそうじゃなかったのですね。

気管切開もしくは,しばらく気管挿管で管理というところでしょうか.
こんな状態になってしまったら麻酔科医でも気管挿管できる保証は全くありません.とっても恐ろしい状況ですね.気道確保していなければ,ある確率でこういったことは起こりうるでしょう.
これで4000万円なら今後は口腔癌は手術せず放射線+化学療法のみというところでしょうか...

私が不思議に思うのは,71才の口腔癌患者のトラブルに1億円を超える請求という計算はどこから出てくるんでしょうか?
平均的余命からすると和解の4000万円でさえ高額過ぎると思われるんですが...
法曹界の方お教え下さい.

Level3さん、原告の年齢を考えますと、Level3さんが不思議に思われるのは至極もっともだと思います。
私も、交通事故を含めて、こんな損害賠償請求額にお目にかかったことは、ありません。

損害賠償額の計算について、ご参考になれば。
ちなみに、この計算方法は、医療事故だろうが、交通事故だろうが、故意の傷害事件だろうが、基本的に同じです(交通事故の場合には過失相殺が問題となることが多いでしょうし、故意の傷害事件の場合には慰謝料の増額が認められやすいでしょう。)。

原告は、損害賠償請求時には、まだ生きておられたので、損害賠償請求額は、以下により積算します。

積極損害(治療費、入院雑費、付添費、将来の治療費、将来の入院雑費、将来の付添費等)+消極損害(休業損害、後遺症に伴う逸失利益)+慰謝料(入院慰謝料、後遺症慰謝料)+弁護士費用

治療費は、実際に支払った治療費や未払いとなっている治療費(行って来いになるでしょうが)です。将来の治療費は、通常は、平均余命までの分を現在の治療費から推定して計算します。

入院雑費と付添費は、赤い本では、それぞれ1日1500円と6500円になっており、将来の分については平均余命までの金額を計算し中間利息(年5%)を控除します。付添費は業者に依頼する場合には、実費で計算することもあります。

休業損害や後遺症に伴う逸失利益は、原告の年収に基づいて計算します。
ですので、原告の年収が高い場合には、この項目の金額が大きくなります。
通常は、67歳まで働くものとして計算しますが、高齢者については余命年数の2分の1とすることが多いです。
本件でも原告の年収が極めて高かったのではないでしょうか。
例として、71歳だけど5000万円も年収のある事業者(社長でも弁護士でも医師でもいいですが)が後遺症等級1級とされた場合、平均余命を78歳とすると、後遺症に伴う逸失利益の計算は、
5000万円×2.7232(労働能力喪失期間3年間のライプニッツ係数=年5%の中間利息控除)×0.7(生活費30%控除)=9531万2000円
となります。

後遺症慰謝料は、おそらく原告の後遺症の等級は1級でしょうから、赤い本によれば2600万円となります。
なお、慰謝料については、増額事由があるとして、増額して請求する場合も多いです。
本件でも増額して請求したのではないでしょうか。

弁護士費用は、通常は10%程度です(実際に弁護士に支払う金額とはイコールではありません。)。


ちなみに、原告が死亡した時点で、将来の治療費、将来の入院雑費、将来の付添費は不要となるので請求できなくなり、後遺症に伴う逸失利益と後遺症慰謝料は、死亡に伴う逸失利益と死亡慰謝料に変わります。

>入院雑費と付添費は、赤い本では、それ
>ぞれ1日1500円と6500円になっ
>ており、将来の分については平均余命ま
>での金額を計算し中間利息(年5%)を
>控除します。

PINEさん,
お返事ありがとうございます.以前から思っていましたが病人の場合その疾患に応じた予後を考慮すべきだと思います.平均余命を使う事に大きな問題があるのではないでしょうか?
71才の癌患者(癌にもよりますが)が平均余命を全うできるでしょうか?
他の訴訟でもそうですが,多くの医療訴訟は重篤な疾患を持っている患者さんに生じていると思います.重篤であればなにもしなければ余命はわずかです.事故によって亡くなったにしても本来の余命と較べ大差のない場合でも非常に高額の賠償金が請求されるのはおかしくないでしょうか?

逸失利益に対する疑問は
語るエントリ(その3)
http://www.yabelab.net/blog/medical/2006/09/17-164308.php
の2006年09月25日 17:42の整形Aさんのコメントが秀逸ですね。

人身損害の賠償額の積算、とりわけ、将来の治療費や入院付添費、逸失利益というのは、示談(和解)や判決の時点で損害額を確定させる必要から、どうしても見込みに基づいて行うということにならざるを得ません。
そんでもって、人身損害の賠償額を計算しなくてはならない事例が物凄く多い(交通事故を想定してください。)。
そうした事情から、こういうルールで処理しましょうという画一的な基準が形成され、今では「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(赤い本)という本にまでなっています。
将来の治療費や入院雑費等を平均余命までとして計算するのも、事故に遭った人が、それ以上生きられたかもしれないし、それまでに死んでしまうかもしれないが、それは今の時点では判断できないので平均余命で計算することにしたにすぎません。
逸失利益の計算についても、同じように、平均就労可能年数67歳まで働くものとして計算することにしたのです。

しかしながら、そもそも不法行為法というのは、損害の公平な分担という理念に基づいています。
交通事故では、被害者側にも落ち度があれば、過失相殺がなされ、損害賠償額が減額されます。
また、被害者側にいわゆる「落ち度」がなくても、素因減額ということがされることもあります。素因減額というのは、交通事故の被害者が、元々もっていた病気(既往症)と交通事故の影響の両方が原因となって後遺障害が発生した場合には、加害者に損害の全部を負担させるのは不公平なので賠償額を減額することです。

Level3さんの「事故によって亡くなったにしても本来の余命と較べ大差のない場合でも非常に高額の賠償金が請求されるのはおかしくないでしょうか?」との疑問はごもっともです。
例えば事故に遭った人が癌患者であり現在の医学ではどんなに長く見積もっても1年後には死んでいるだろうというのであれば、損害の公平な分担という理念からは、立証が大変でしょうが将来の治療費等や逸失利益の計算期間を1年程度に短くすべきだろうと、私は思います。
私が医療機関側の代理人であれば、Level3さんのような主張を当然すると思います(相手が癌であることを知らないと嫌ですが・・・。)。
ただ、念のため、「請求される」ことは誰にも止められません。(^ ^;Δ

記事にある医療事故も、原告の年齢から考えれば死亡による将来の治療費や入院雑費等の減額幅は狭いと思われますので、和解の際には原告が癌であることを理由に逸失利益の減額幅が大きく考慮されたのではないかとも考えられます。

元田舎医さん、整形Aさんが5000万円の例をあげておられるような仕組みとして、契約が履行されなかった場合に予め損害賠償額を定めておく「損害賠償額の予定」というものがあります。
不動産売買における解約手附などもその一つです。
いわゆる免責同意は消費者契約法で無効とされると思いますが、「損害賠償額の予定」の設定の仕方によっては合理的な仕組みを作ることができるかもしれません。

PINE様、ありがとうございました。
(ここまでするのは、有料法律相談のレベルと思いますが)

> 「損害賠償額の予定」の設定の仕方によっては合理的な仕組みを作ることができるかもしれません

損害賠償額の上限設定(キャップ制)のような方法が考えられます。

あわせて、医療の場合は不動産取引とは異なり、緊急時に患者本人の明確な合意を取れないままに医療行為に入らねばならないこともままありますから、
法律で規定して、健保診療においてはこれを標準約款とするというような強制適用のしくみが必要と思います。

PINEさん,お返事ありがとうございました.

やはり単純に平均余命で考えているのですね.やはり片手落ちですよね.
ではもうひとつお教え下さい.平均余命を超えた方の場合どうするんでしょうか?昨今の医療訴訟では80代後半や90代の患者さんでもかなり高額の賠償金が請求されています.このような方の場合には,現在の年齢から生存曲線などを用いて余命を算出しているんでしょうか?

ゼロ歳での平均余命が平均寿命でして、例えば100歳のじいちゃんの平均余命はあと2年ぐらいだったりします。

参考
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life05/01.html

元田舎医さんに答えられてしまいました。
平均寿命と平均余命をゴッチャにしがちですね(私もそうですが。)。

これからの時代、直視下で気管内挿管をすることが常識外れになるのでしょうか。
緊急気管切開も有効な方法ですが、なかなか手っ取り早くできる人は少ないです。
鼻から、内視鏡を使ってモニター下に管を入れるのが正解だったのかもしれません。でも出血多量で舌がはれていれば、この方法も取れなかった可能性もありますが。

>鼻から、内視鏡を使ってモニター下に管を入れるのが正解だったのかもしれませ
>ん。でも出血多量で舌がはれていれば、この方法も取れなかった可能性もあります
>が。

れいさん,
出血(特に術後出血で処置が必要な場合)していますと,内視鏡でも困難です.視野を得るのに難渋します.そのような状況下では緊急的に輪状甲状靭帯穿刺用のキットを用いて簡易の気管切開を可及的に行う以外,蘇生&救命は困難です.
気道管理のプロである我々麻酔科医でも確実にこれが行えるとは言い切れません.太っていて正中の判りにくい患者さんなどではなかなか難しいこともあります.正中線を外すと血管を損傷して結構な出血が生じることもあるのです.
全例しばらく気道確保(気管挿管)しておけとは言えませんが,挿管が難しい(麻酔時におそらくわかっていたはず)症例や手術操作によって次回の挿管が難しくなっている可能性のある症例では安全をみこして一晩は気管チューブをのこすべきだったんでしょうね.
気管チューブを残すデメリットもありますから判断は難しいです...

日本は違いますが、0歳時の平均余命と1歳時の平均余命では後者のほうが長い国は結構あるですよ。

P R

ブログタイムズ

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